嫌われ者の物語

先日,弁護士会の委員会の仲間たちと趣味の話をしていたとき,ある女性弁護士が「バードウォッチング」だと言い出したので,ちょっと驚きました。

単純にめずらしいからというわけでもなく,自分の子ども時代を懐かしく思い出したからです。

おぼろげですが,小学生のときにクラスで作った文集か何かに,自分の趣味を「バードウォッチング」と書いた記憶があります。

 

 

昔から鳥が好きで,小さい頃から鳥類図鑑を眺めたりしていました。

それで,どうしても自分で鳥の写真を撮りたくて,お小遣いを貯めてニコンの一眼レフカメラと望遠レンズを買い,休日には自転車で野鳥が多いという森まで遠出して,蚊に刺されながら小鳥を狙って撮っていました。

今思い出すと,森というか,ちょっとした雑木林なんですけどね。

 

で,問題なのは……,鳥って,すぐ逃げるんですよ。

当たり前ですけど(笑)。

 

「バードウォッチング」なら鳥を「見れば」いいのですから,望遠鏡(双眼鏡)で遠くからじっと見ていればいいわけです。双眼鏡なら,それなりのものがすぐ手に入ります。

ところが,鳥の「写真を撮りたい」となると,カメラと望遠レンズが必要です。

 

望遠レンズと言っても,当時のものは200ミリを超えればそこそこの性能です。憧れたのは,プロも使うようなサンニッパ(300ミリ/f2.8)とかゴーゴーロク(500ミリ/f5.6)とかなのですが,レンズが巨大なうえに価格も巨大で,すぐあきらめました。

それでも私は,小学生にしてはかなり頑張って,ニーニッパ(200ミリ/F2.8)で勝負していました。

でも,200ミリって……。

頑張って近づいて撮ったはずの鳥が,豆粒のように小さい……。

しかも,非デジタルの銀塩カメラですから,現像代がまたバカになりません。

残念ながら,趣味としては長続きしませんでした。

 

今はコンデジ(コンパクトデジタルカメラ)でも500ミリどころか1000ミリ以上の超望遠が気軽に使えますし,何千枚と撮りためてから自宅でじっくり選んで手軽にプリントできるのですから,本当に便利になったものです。

 

 

 

鳥の写真を撮ろうと思った直接のきっかけは,「ウッド・ノート」という漫画でした。

主人公の高校生・唐須一二三(からすひふみ)はハシブトガラスの九郎を飼っていて(一緒に暮らしていて),九郎は九官鳥のようにちょっと言葉を話したりするので,それがすごく可愛いというか,小憎らしいというか。

以来,カラスが好きです。

 

委員会の仲間たちとの話でもカラスのことが話題になりましたが,カラスの頭の良さは格別です。言葉を覚えることも,本当にあります。

また,今では怖いとか気色悪いというイメージのついてしまった嫌われ者のカラスですが,もともとは美しい鳥です(ハシブトガラスは,ちょっとでこっぱちでユーモラスな顔ですが,ハシボソガラスは凜としています)。

日本女性の黒髪の理想の美しさを表現する「濡烏」(ぬれがらす)という言葉は,カラスの青みを帯びた漆黒の羽色を指しています(烏羽色とも言います。)

 

さらに,カラスは世界各地の神話で,神の使いとされています。

 

ギリシャ神話で,カラスは,太陽神アポロンに仕え,白銀色に輝く羽を持ち,美しい声で人の言葉を話す頭の良い鳥でした。

ところが,あるときカラスがアポロンの妻コロニスの浮気を密告したことから,アポロンはコロニスを矢で射殺してしまいます。

その後,我に返ったアポロンはカラスを恨み,美しい羽と声を奪って天界を追放しました。

以後,カラスの羽は真っ黒に染まり,低く醜い声で鳴くことしかできなくなったというのです。

 

そんな話を知ったら,嫌われ者のカラスを見る目が,少し優しくなる気がしませんか?

……カラスに限らず,どんな嫌われ者にも,知られざる物語がきっとあるんです。

 

 

これを書いていて,ウッド・ノートの作者小山田いくさんが今年の3月に亡くなられたことを知りました。

また,小山田さんが,たがみよしひささん(こちらも漫画家)の兄だということも初めて知って,二度驚きました。

 

この夏,久しぶりに「ウッド・ノート」を読み返したいと思います(長く絶版でしたが,今は復刻されています)。

 

 

皆さんも,夏休みに,とっくに忘れていた昔の趣味を,ちょっと思い出してみてはいかがですか?