真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(6):最終回

前回(真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(5)参照),真のブラック社員の悪行への対処方法や,予備軍=半社会人をホワイト社員へと育てていくリーダーの役割などについてお話ししました。
今回は,ブラック企業の手先となっている元祖ブラック社員への対策についてご説明して,ブラック社員シリーズは一応の最終回にしたいと思います。

ブラック企業問題の本質は,問題の取り上げ方にある

元祖ブラック社員は,ブラック企業(経営者)の言うままに動いているのですから,これに対処する必要があるのは会社・経営者側ではありませんね。運悪くブラック企業に勤務してしまい,熱心な元祖ブラック社員の同僚や部下という立場になってしまった一般の従業員,パート,アルバイトの皆さんです。
つまり,元祖ブラック社員への対処法とは,労働者側がブラック企業に対してどう立ち向かうか,という話なのです。
「ブラック企業対策」については,既にいろいろな人がいろいろなことを好き勝手に語っていますが,はっきり言って,そのこと自体がブラック企業問題の本質だと思います。
本来,個々人の法的問題(一般的な労働事件)の集合にすぎないことを意図的に社会問題化させた結果,ブラック企業の被害を受けた個々人の救済が後回しにされているのです。

ブラック企業の法律問題とは?

ブラック企業では,元祖ブラック社員の現場指揮のもとで,労働法の規制を無視した長時間残業,休日出勤,有給その他の特別休暇の取得妨害などが,集団的かつ継続的に行われ,しかも,これに従わない従業員に対して強烈なパワハラが行われる結果,最後は自主退職(実質的な不当解雇)に追い込まれます。
それが,特定の企業において,組織的に毎年のように大量に行われていることから,ブラック企業問題が大きく取り上げられました。


しかし,こうしたブラック企業の問題は,一般的な労働法や裁判例に基づく規制・規範への違反が明らかな点ばかりです。
元祖ブラック社員は,自覚の有無にかかわらずブラック企業の共犯者(民事上の不法行為にかかる不真正連帯債務者)となっている可能性はありますが,違反行為の主体は,その「企業」です。
要するに,もともとブラック企業問題とは,特定の企業による常習的な労働法違反行為であるにすぎません。それなのに,何かまったく新しい社会的病理現象が発生しているかのように,世間が騒ぎ立てているだけなのです。

これは,単なる「売春」を「援助交際」と言い換えて流行させてしまったのと同じ構図です。


ブラック企業や元祖ブラック社員に対しては,ほとんどの場合,通常の労働法の知識・経験に基づく一般的な対処を適切かつ緻密に行うことで,十分に対処できます。
そのためには,労働者側で,労働法制の基本をできるだけ学んでおくこと,変だと思ったら早めに労働事件について経験のある弁護士に相談しておき,状況を見て交渉や裁判,労働審判などの正式な依頼をすることが,とても大切になります。

専門家を名乗る非弁護士に注意

このブラック企業問題については,これまで,むしろ弁護士以外の者が中心となって,ある種,売名的にセンセーショナルな取り上げ方が続けられているようです。
その結果,本来の労働事件としての個別対処が置き去りにされたまま「社会問題」化し,政治課題,経済対策などといった視点で構造的な対処法ばかりが語られ続けました。


しかし,そのような大きすぎる視点では,ブラック企業で心身がボロボロになるまで働かされた個々の被害者たちの救済は後回しにされ,無視されてしまいます。
被害者自身も,マスコミ等の論調を見ると,自分の受けた被害が弁護士への相談で対処可能な法律問題だという認識を持てません。そうなると,精神的に追い込まれ,誰の助けも求めないまま自殺する人まで出てきてしまうのです。

 

ブラック企業問題に限らず,本来は弁護士が処理可能な法律問題であるにもかかわらず,弁護士以外の者が先に独占的な関与をしてしまうことによって被害者の法的救済が結果的に遅れてしまうことが,様々な分野で起こっています。最近では,ストーカー問題やDV,離婚問題などの男女間トラブルの分野で多くみられるようです。
行政書士など他の士業の方が,本来本業でないはずの部分まで頑張りすぎてしまう場合もあれば,法的資格と無関係に相談を受けることを商売にしようとする人も,以前より増えているように感じます。
もちろん,法律では解決しきれない社会的問題は存在しますし,法的には救済しきれない被害者がいることも確かです。彼らのためには,法律家以外の人々の様々な手助けが絶対に必要です。
しかし,法的に解決できる問題については,まず最初に「弁護士」の助言を求めておくべきです。法律上の解決を遅らせることは,ただ傷口を広げるだけで,メリットはありません。

取り返しのつかない末期症状になってから弁護士に相談しはじめるのでは,遅すぎます。

 

弁護士以外でも,本当に被害者のために誠実に活動している人たちは,被害者からの相談を決して自分のところだけで止めず,直ちに弁護士へ繋ごうとします。

それをしないで,「弁護士が足りないから自分がやっている」,「弁護士では解決できない」ようなことを言う非弁護士には,くれぐれも注意してください。(もう少し軽い話題ですが,「日本のテレビ報道は,もう少し何とかならないのか。(2014年6月2日のブログ)」もご参照ください。)