重い罪を犯したと疑うだけの充分な理由があって,緊急性があるときに限り,逮捕状がなくても,とりあえず警察官が理由を口で言って先に被疑者を逮捕してしまい,逮捕した後ですぐに逮捕状を裁判官に請求することができます。
これを緊急逮捕と言います(刑訴法210条)。
よくある緊急逮捕の例は,警察が逃亡中の被疑者を偶然発見して,その場で直ちに捕まえようとするときです。
逃亡中の被疑者は現行犯人や準現行犯人には当たりませんが,道端で発見してから逮捕状を取りに行っていたら見失ってしまいます。
職務質問や任意同行では対応しきれない場合なら,緊急逮捕することになるでしょう。
重い罪とは,「死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪」です。重いと言っても,実は結構たくさんあります。刑法では,ほとんどの罪が
この基準に当てはまってしまいます。
たとえば,殺人罪,傷害罪,強盗罪,窃盗罪,強姦罪,強制わいせつ罪,詐欺罪,恐喝罪,横領罪,公務執行妨害罪,住居侵入罪,名誉毀損罪,器物損壊罪などです。
当てはまらないのは,暴行罪,脅迫罪,軽犯罪法違反の罪などです。
また,後になってからでも,逮捕状がきちんと出ることが必要です。
なので,後で請求したけど裁判官が逮捕状を出さなかったときは,さかのぼって緊急逮捕が違法だったことになり,被疑者は釈放されます。
ところで,日本の憲法は,逮捕状による通常逮捕と現行犯逮捕以外の逮捕を,一切認めていません(憲法33条)。
したがって,緊急逮捕は,普通に考えれば憲法違反のはずなのですが,実務上は許されてしまっています。
また,緊急逮捕は,私人には許されていません。現行犯逮捕とは,似ているようで違います。たとえ充分な理由があると思っても,緊急逮捕はできません。
よく考えれば,私人が後で逮捕状を請求するなんてことはできないのですから,当然ですね。