司法取引と刑事免責がもたらす日本の新たな闇

今年6月22日に有罪判決のあった裁判員裁判で、「刑事免責制度」が日本で初めて適用されました。

6月1日から施行されていた制度ですので、初適用までに少し間があったことになります。

とはいえ、今後はどんどん適用されていくことになるでしょう。

 

 

 

私も先日、といっても3月のことですが、日弁連からの派遣講師として、茨城県弁護士会(水戸)と埼玉弁護士会(浦和)で、改正刑事訴訟法に関する講義をしてきました。

これは、全国一斉に行った弁護士向け研修会の第二弾に当たり、2016年の第一弾に引き続いて講師をお引き受けしたものです。

 

今回は、いわゆる「司法取引」や「刑事免責」制度の導入に絡んだ改正法の講義だったのですが、なにしろ今まで日本になかったまったく新しい制度です。

こんな制度が始まると、日本の刑事裁判は一体どんなことになってしまうのか。刑事事件を扱う弁護士なら、誰もが気になるところです。

講義を受講していただいた弁護士は、両方の研修会で計200名を超えました。

 

最大の問題は、その時点でまだ一度も実施されていない法律と制度について、講師のほうも実は本当のことがよく分からない、ということでした。

 

 

 

とにかく世間から注目されているのは、司法取引です。

「捜査・公判協力型の協議・合意制度」というのが条文に素直な呼称ですが、長いうえに分かりにくくてアホくさいので、講義でもそんな呼び方はしませんでした。

政府は、司法取引ではなく「合意制度」と呼べと言っていますが、誰も聞く耳を持っていません。

司法が取引しているのだから司法取引なんです。

 

「司法取引」には大きく分けて2種類あります。

自分の罪を認めることで自分の刑を軽くしてもらう制度(自己負罪型)と、他人を売り渡すことで自分の刑を軽くしてもらう制度(捜査・公判協力型)です。

日本は後者ですね。

 

要するに、「自分が罪をまぬがれるために、どんどん他人の罪を証言しましょう」という制度です。

……いやいや、普通に考えて、そんなヤツの証言、そもそも信用できるわけがないじゃないですか。

非常に問題の多い制度、というかもう、完全にふざけた話なのです。

 

結局、実際に使われる場面は、限られるでしょう。

 

 

これに対して、「刑事免責」への注目は低いです。

弁護士の中でも、よほど刑事弁護と改正法に精通していない限り、刑事免責について十分な理解がありません。

しかし、今回の改正でよく使われることになるのは、司法取引ではなく刑事免責なのです。

誤解されていることが多いですが、最初に書いた事件で適用されたのも、司法取引ではなく刑事免責です。

 

 

刑事免責は、黙秘権や供述拒否権を奪って強制的に証言させる制度です。

その代わり、しゃべった内容をしゃべった人の裁判で証拠に使うことはできません。

 

それならいいんじゃないか、と思うと間違いです。

 

実は、刑事免責にも2種類あります。

しゃべった内容に関する事件では訴追されないという制度(事件免責)と、しゃべった内容を証拠にできないだけの制度(供述免責)です。

日本は後者ですから、無理矢理しゃべらせた内容をヒントにして後付けで捜査した証拠は、有罪証拠として使えるのです。

しかも、協議も合意も不要で、対象事件の限定もなく、検察官が一方的に強制できます。

つまり、単純に「黙秘権を無意味にするための制度」として使える、ということです。

 

 

 

刑事免責制度は、日本の刑事司法に新たな汚点を刻みつけることになるでしょう。