どんな場合に逮捕されるのか?(2)-通常逮捕の要件

通常逮捕の手続要件

警察が通常逮捕をするためには,裁判官が逮捕状を発付し,警察が逮捕状を呈示するという手続が必要です。(これを,手続要件と言います。)

したがって,警察官は,まず被疑者に逮捕状を見せて,内容を理解させてから逮捕しなければなりません。

 

実は,このことが任意同行と関係しています。
逮捕状を見せられた容疑者がいきなり逃げ出すことがあるので,警察は先に任意同行をしようとするのです。

任意同行なら,「話を聞きたい」とか言うだけで,逮捕状は見せなくていいからです。

通常逮捕の要件とは?

では,どのような場合に,通常逮捕の手続が取られるのでしょうか。

これは,どんな場合に逮捕状が発付されるのかという判断基準の問題です。

その判断基準のことを,逮捕の要件と言います。

 

まず,警察は,犯人だと疑っている人が捜査中に逃げてしまわないように逮捕するのだ,ということは分かると思います。

ということは,どうやら「犯人だという疑いがあること」,「逃げられないようにすること」の2つが問題になりそうです。

そのことを法律の言葉で,「逮捕の理由」と,「逮捕の必要性」と言います。

つまり,逮捕の要件(判断基準)は,逮捕の理由と必要性の2つです。

逮捕の理由とは?

逮捕の理由とは,その人が罪を犯したという疑いがあることです。

法律では,「被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」と書かれています(刑訴法199条1項)。

 

もちろん,警察官が一人でも疑えばそれで逮捕の理由になるわけではなく,誰でも疑いを持つ程度の証拠が必要です。
裁判官がその証拠を見て,一応の疑いがあるなと思ったときにだけ,逮捕状を出すことになっています。

 

しかし,実際には,警察から逮捕状を請求されれば,裁判官は証拠の中身などほとんど見ないで,すぐに逮捕状を出してしまいます。

逮捕の必要性とは?

逮捕の必要性とは,その人が逃げたり,証拠を隠したり壊したりする危険があるということです。

 

被疑者に「逃亡するおそれ」や「犯罪の証拠を隠滅するおそれ」が明らかだと言えない場合,裁判官は,警察に対して逮捕状を渡すことを拒否しなければなりません(刑訴規則143条の3)。

つまり,逮捕状の請求を却下するのです(刑訴法199条2項ただし書)。

裁判官は,逮捕の必要性の有無を,被疑者の年齢,境遇,犯罪の軽重・態様その他様々な事情から判断することになっています(刑訴規則143条の3)。

軽微な犯罪で逮捕する場合の特別な要件

さらに,一定の軽い犯罪については,その人が住居不定であるか,警察の呼び出しを正当な理由なく無視した場合でなければ,逮捕することはできません。

一定の軽い犯罪とは,「30万円以下の罰金,拘留または科料に当たる罪」のことです(刑訴法199条1項ただし書)。

たとえば,過失傷害罪,侮辱罪,軽犯罪法違反の罪などです。

逮捕の要件がそろわなければ逮捕できない

ここで,とても大事なことが2つあります。

 

第1に,逮捕の要件がない場合は,逮捕できないということです。

つまり,逮捕の理由(罪を犯した疑い)がないか,あるいは,逮捕の必要性(逃げたり証拠を隠滅したりする危険)がないと言える状況を自分で作ってしまえば,逮捕されることはないのです。

 

第2に,取調べは逮捕の要件になっていないということです。逮捕は,取調べをするためにしているのではないのです。

 

是非,覚えておいてください。