被害者が告訴や民事裁判(損害賠償請求)などのために自分で写真やビデオを撮影して証拠集めをしようとする場合に,よく相談中にお話しする撮影上の基本的な注意点7つをまとめました。
犯罪被害者の方だけでなく,一般的に民事裁判などを考えている方が,後で証拠として使えるように,自分で(あるいは人に頼んで)写真・ビデオ撮影をしようとする際の注意点としても,同じように役に立つはずです。
犯罪被害を受けているまさにその瞬間に犯行現場や犯人の顔を撮影する行為は,証拠集めとしては最も直接的な方法ではありますが,同時に,最も危険な方法でもあります。
写真を撮られると分かってすぐに逃げ出すような犯人ならいいですが,逆上した犯人に暴力を振るわれたり,カメラを取り上げられたりしたら,元も子もありません。
証拠集めとしての写真・ビデオ撮影は,決して無理をせず,完全な隠し撮りが安全に可能な状況か,立ち去る犯人の後ろ姿や車のナンバーを撮影する場合や,事件後に現場や証拠物を撮影する場合のような危険の無い場面に限定してください。
証拠集めは,時間との勝負です。証拠は,時間と共に薄れ,散って,消えていきます。
たとえば,殴られた傷は治り,あざも消えていきますね。
また,物理的に消えるはずがないと思うような証拠でも,事件との関係は薄くなり,いずれは消えていきます。
たとえば,壊された物はそこから消えないかもしれませんが,犯人に壊された5分後の写真と1ヶ月後の写真では,証拠の力(事件との関係)に大きな違いがあります。
事件後の1ヶ月の間に,何か別の理由で壊れたのかもしれないからです。
物損事故でへこんだ車の写真を撮ろうと思っていたら,1週間後に別の物損事故にあって,どっちがどっちの事故による傷か分からなくなってしまった人もいます。
いつでも撮れるから後にしようなどと思わず,撮れるときにすぐに撮るのが基本です。
手ぶれやピンぼけで何が写っているのかまったくわからないような写真,ぼけていて問題となっている顔や文字が判別できないような写真,逆光で真っ暗な写真などでは,当然ですが証拠になりません。
特に,暗い場所で撮影する場合には,シャッタースピードが遅くなり,手ぶれが起きやすいので注意してください。
手ぶれを避けるコツは,シャッターを押す時に(押した後も)できるだけカメラを動かさないことです。
シャッターを押した直後にカメラを動かしてしまうクセがあると,手ぶれ写真を量産してしまいます。
いざ撮ろうとしたときに電池切れや故障,使い方がわからないといったトラブルがないように,念のため,先に同じような状況でテスト撮影をしておくようにしてください。
事件後すぐに撮られていて,良く写っているのに証拠になりにくいのが,ズームアップしすぎている写真です。
たとえば,傷の写真はあるが,顔も体も写っていないので,誰を写したのか分からないことがあります。他人の傷かもしれないのでは,証拠になりません。
また,大きさはちょうどいいが,真正面からの写真ばかりで,横や後方の様子がわからないとか,対象の物だけを単独で写しているために大きさが比較できない,などということもあります。
撮影する際には,撮影者の立ち位置,撮影の角度や向き,撮影距離(広角・望遠)などをいろいろと変えながら,なるべくたくさんの枚数を撮るようにしてください。
写真やビデオを証拠にしようとする場合には,「誰が,いつ,どこで,何を」撮ったのかをはっきりさせておくことが大事です。
中でも,「いつ」撮ったかは重要です。事件から時間が経つほど,証拠としての意味が薄れていくからです。
せっかく事件直後に撮影しても,後になっていつ撮った写真かわからなくなってしまっては意味がありません。撮影情報をしっかり記録しておきましょう。
また,写真に日付けを入れる機能があるときは,なるべく入れておきましょう。
記録日時の情報が残るように,撮影データの保存にも注意してください。
デジカメ等で撮影した電子データは,保存に便利で撮影情報も記録されるのがメリットです。
他面,データの移動やコピーの際に撮影情報が上書きされてしまい,撮影した日付けが分からなくなることもあります。
撮影情報に変更が加わると,データを加工したのではないかと疑われることもあり得ます。
データの取り扱いに十分注意し,電子機器が苦手な方は,なるべく元データのままで保管するようにしてください。
自分や自分の物,あるいは公共物を撮影するのはまったくの自由ですが,他人の所有物や他人の容貌を勝手に撮影する行為は,状況によってはプライバシー侵害等の違法行為となる可能性があります。
特に,隠し撮りによって他人の顔などを写すとき,公にさらされていない他人の所有物を写すときは,犯罪の証拠保全等の緊急やむを得ない場合を除き,あらかじめ違法でないかどうか弁護士に相談するようにしてください。