前回(真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(3)参照),真のブラック社員による顧客情報流出・流用のリスク例や元祖ブラック社員との違いについてお話ししました。
今回は,真のブラック社員予備軍である「半社会人」について,予備軍から真のブラック社員に変貌する際の心理状況について,ご説明します。
真のブラック社員予備軍は「半社会人」である
いつの時代もそうですが,若者たちは,古い世代と異なる全く新しい感覚で社会に進出します。
もちろん,若者たちをひとくくりに批判するのは,馬鹿げています。「新人類」や「宇宙人」たちだって,今はもう立派な中堅世代でしょう。
新しい感覚の若い人たちが当然にブラック社員予備軍になっているのではありません。ブラック社員予備軍になる一定の傾向を持った人は,昔から存在するし,それは若者に限らないのです。
ただ,真のブラック社員やその予備軍の多くが今の若者世代であることも,どうやら現実です。
では,真のブラック社員予備軍になる人たちとは,どんな傾向を持っているのでしょうか。
今二十代以下の世代は,生まれたときからたくさんの家電とIT技術に当然のごとく囲まれています。その中で育った若者たちの一部には,ネット上の友人とリアル(現実世界)の友人との区別が不十分で,ネットとリアルの人間関係が等価値な人がいます。
そこで止まっていれば何も問題は起こりませんが,これは非常に危うい状態です。ちょっとした心の病,ネット依存度の傾き具合によって,リアルとネットの比重が次第に置き換わってしまうからです。
ネットの世界で自己実現を図るようになれば,リアルな世界で人に認められる必要はなくなります。逆に,リアルでうまくいかないことは,すべてネットで解決し,ネットで発散するようになります。
そうなると,現実世界で生きる意欲も力も低下するし,他人との関わり方や生き方がどんどん下手になります。
その結果,もろく傷つきやすくなった自分の心をリアルな人間関係の戦いから守るため,引きこもりになったり,他者に対して極端に攻撃的になったりしてしまいます。
こうしたネット依存の例に限らず,適切な人間関係の結び方を学ばずに大人になり,社会に出てきてしまう人たちがいます。
彼らは,まだ社会にうまく適合していない社会人,つまり「半社会人」です。
仕事や人生の知識・経験が足りていない「半人前」とは違います。社会の中で人と関わって生きることが下手なのです。
半社会人は,時代を問わず昔から一定数存在しました。
しかし,現代日本の極めて恵まれた生活環境は,世の中に半社会人の割合を劇的に増加させ,質的にも変化をもたらしつつあると思います。ネット社会がそれを加速しています。
なぜなら,リアルな人間関係を結ばずに大人になることが誰にでもできてしまうし,それで何の不自由もなく現実に生きていけるからです。
そして,彼ら半社会人は,真のブラック社員予備軍として,あなたの会社にも必ず紛れ込んで来るのです。
予備軍から真のブラック社員への進化(退化?)
人間関係の構築が苦手な「予備軍=半社会人」が,たとえば,現実世界で上司に激しく怒られたとき,どう感じて,どう行動することになるでしょうか。
彼らにとって,人目のある場所での上司からの叱責は,自分への攻撃です。
「もし教育的な指導のつもりなら,個別に呼び出して注意すれば十分じゃないか。こっちは黙って静かに聞いているんだから,大声を出す必要もないだろう。それなのに,上司はわざわざ人前で怒って責めてきた。明らかにイジメだ。」
それが,彼らの合理的思考です。
ところが,彼らは,攻撃してくる上司に対して,リアルな世界で直接反論できるだけの対人経験値がありません。そのため,彼らには,上司から一方的に恥をかかされた,同僚や後輩から理不尽に笑われたという,悔しさだけが残ります。
そんなことが積み重なれば,いずれそれは恨みとなって,彼らが得意とする世界,すなわちネットの世界での徹底的な反撃へと結びつくことになるのです。
その瞬間,彼らは予備軍から真のブラック社員へと変貌します。
彼らにとって,面と向かって上司に言い返すことと,ネット上で全世界に向かって上司や同僚たちの悪口を言いふらすこととの間に,特別な違いなどありません。心理的に追い込まれた結果,自分にとって,より「やりやすい方法」で反撃しただけなのです。
また,多くがネット依存傾向のある彼らにとって,ネット上に誰でもアクセス可能な状態で公開されている電子データは,すべて「フリー」(いくらでもタダで入手でき,誰でも自分勝手に自由に使って良いもの)だという感覚があります。
したがって,もし会社内のパソコンに,パスワードもかけずに社員なら誰でもアクセスできる状態で顧客データが保存されていれば,それは社員が誰でも勝手に使うことを許された「フリー」の情報だと感じます。(少なくとも自分に対して,そういう言い訳ができてしまいます。)
電子データは,形がなく無限にコピー可能です。たとえ,それが本来は他人のモノであっても,お金や宝石を盗む感覚とは全く違います。
真のブラック社員にとって,自分が利用できる情報を最大限利用するのは単に賢い選択であり,個人の自由です。会社が誰でも利用できるようにしていた顧客データを副業のために使ったからといって,一体何が悪いのか分からない,となるのです。
では,こうした予備軍の寝た子を起こすことなく,むしろ彼らを積極的にホワイト社員(デキる社員)へと導くための上手な方法がないでしょうか。
次回,「真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(5)」に続きます。
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しょうこ (木曜日, 06 11月 2014 18:11)
こんにちは。お久しぶりです。残念ながら、現在の連載、読んでいてあんまり気分の良いものではありませんね。親の躾がなってない!なんてことを言うと、オババの戯言のように思われるかもしれませんが、社会人になってから、会社が仕事以外の面でも導いていかないといけないなんて、大変な世の中になったもんだと思います。弁護士さんの事務所でもそういうことがあるのでしょうか?
ところで、何か更新があるかしらとたまに訪問しておりますが、何も更新がないときもあり、がっかりすることが多々あります。更新時に連絡してくれるようなサービスはありますか?
それでは、朝夕と冷え込んできていますので、ご自愛ください。次の更新を楽しみにしています。
bengonin (金曜日, 07 11月 2014 00:24)
しょうこさん,こんばんは。確かに,書いている私も楽しい話題ではないですね。もしかすると,義務教育で子どものしつけ方を議論しているのと同じような違和感をお持ちなんじゃないでしょうか。
ただ,この問題を会社経営者の視点で見ると,様々な個性のある社員たちを適材適所に用いて能力を発揮してもらうことも,大切な経営手腕のひとつですし,会社にとっての大事な利益です。そのあたりは続きで書いてみます。
それと,弁護士も,司法試験が受かりやすくなって人数も増えましたからね……。でも,幸いにして我が浦和法律事務所に問題児はいません。私を除いて。
更新のお知らせについては検討中です。もう少しお待ちくださいね。