トランプ・リスク

米国の大統領選挙が佳境に入りました。

 

当初,トランプ候補がこれほどの嵐を巻き起こすとは,なかなか予想できなかったのではないでしょうか。

だって,普通に見たら,ちょっとえらそうで下品なおじさんですよね。

せいぜいほめても,親分肌で頼りがいがあって,ものすごい大金持ちで,やたらとジョークを飛ばすおもしろい人,といったところでしょうか。

その彼が,約半数の米国民から今も大統領候補として支持されています。日本人には理解しにくい現実です。

 

株式・金融市場では,トランプ候補が大統領になったらアメリカ経済(ひいては世界経済)に革命的な混乱が起こるかもしれないと不安視されており,トランプ氏の支持率が下がると,「トランプ・リスク」が下がったと喜び,それで株価が上昇したりしています。

もしトランプ大統領が誕生すれば,ヒトラーの再来だと危惧する人もいます。

 

もっとも,じゃあクリントン候補がいいのかというと,けっしてそうではないでしょう。

実際,「クリントンさんなら最高だね」なんていう話,日本では聞いたことがありません。

 

 

 

日本の場合,「内閣総理大臣は,国会議員の中から国会の議決で,これを指名する」(日本国憲法67条1項)とされています。

国民が首相(総理大臣)を直接選ぶことは,できません。

日本で首相公選制を実現するには,憲法改正が必要です。

 

「リーダーを自分たちで選べないから,国民が政治に興味が持てないんだ」

という意見も,根強く主張されています。

だからこそ憲法改正すべき,という意見もあります。

 

つまり,そういう意見の人にとっては,

「大統領を自分たちで選べるアメリカが,うらやましい!」

「クリントンとトランプ,どちらかを好きに選べるなんて,なんて贅沢なんだ!」

というわけですね。

 

 

……あれ? もしかして何か違います? でも,そのはず,ですよね?

 

 

 

日本で首相公選制をやっても,出てきた候補者に対して,アメリカのような信頼や熱狂は生じない可能性が高いでしょう。

いや,生じたとしたら,かえって怖いと思いませんか?

トランプ候補のジョークに,日本中で熱狂したいですか?

 

 

正確に言えば,アメリカ大統領選挙は間接選挙です。有権者である国民が選ぶのは選挙人(実際に特定の候補者への選挙権を持つ人)であって,候補者その人ではありません。

ただ,選挙人が自分の支持する候補者を事前に発表しているので,結果的に候補者本人への投票(直接選挙)と同じことになっているだけです。

 

つまり,日本でも,すべての国会議員候補者が首相として支持する人をあらかじめ明言した状態で総選挙を行えば,米国の大統領選挙とほぼ同じ状況は作れます。

国民の側が政治に対して強い意思を持ちさえすれば,いくらでも実現できるでしょう。

アメリカをうらやましがる必要も,憲法改正の必要もありません。

 

 

私たちはつい,何でもいいから国民が選べるようにすれば,政治(指導者)がもっと国民の声を聞いてくれるのではないかと単純に考えがちですが,それは違います。

国民が選べるということは,その人に対して,より大きな権力を与えるということです。

そして,国民が選んだからと言って,選んだ後もずっと国民の言うとおりにさせられるとは限りません。

むしろ逆です。

選んだ以上,後は任せる(好きにさせる)という色彩が,より強くなります。

 

国民の側で政治への関心が低く,それでなくても政(まつりごと)を御上(おかみ)に任せっぱなしにしがちな国民が,一度に一人の人間に権力を与えてしまうことは,極めて危険です。

選ぶだけなら一瞬です。選んだ後にこそ,長く,辛抱強く,関心を向け続ける必要があるんです。

 

日本のように,御上任せの結果として行政府(内閣,官僚組織)が暴走しやすい傾向にある国では,国家権力をなるべく分割して,暴走しないよう相互抑制を効かせ,選挙などを通じて国民が権力間のバランスを常に維持していくことが非常に効果的です。それが結果的に,権力から国民を守ることになります。

それこそ,日本国憲法の定める三権分立(国会,内閣,裁判所)の統治機構です。

憲法をよく知れば知るほど,意外なほど「よくできている」ことが分かるはずです。

 

 

今,日本は選挙に行かない人が,すごく多いですね。とても残念なことです。

 

私の身勝手な印象ですが,普段,政治に関心が無い,選挙に行かない人ほど,

「自分で首相を選べるわけでもないし,投票してもどうせ何も変わらないから,選挙にはいかない」

「内閣総理大臣を選べるんなら,選挙に行ってもいい」

などと,よく口にされるように思います。

 

もし,そうした私の印象が正しいとしたら,首相公選制になったとき,普段は政治に何の関心も持たない有権者が首相に選ぶのは,一体どういう人でしょうか?

そして,その人に絶大な権力を与えてしまった後,一時の熱狂を忘れた有権者は,長期間,辛抱強く,その人の政治行動に関心を向け続け,権力を国民の監視下に置くことできるでしょうか?

 

今後,日本国民の政治への関心と責任感が高まり,投票率が70%とか80%とかになって,それでも選挙後の公約違反が絶えなかったりして国民の多数が首相公選制(あるいはそれに近い形の総選挙)を強く求めるようになれば,日本の民主主義は,新しい,本物の時代に入るでしょう。

 

しかし,今のように投票率が低い状況で(低いからこそ)議論されるような首相公選制の意見は,「まやかし」の匂いがプンプンします。

 

 

 

さて,日本では,どちらかというとトランプ候補が悪玉で困った人扱いです。

けれども,私は,クリントン候補の勝利こそ,日本や世界に本当の危機を引き起こすきっかけになるのではないかと思っています。

 

彼女が大統領になったとき,否,なるとすればその前の今この瞬間にも,それは,もう既に始まっているはずです。

 

だって,大富豪のプレーヤーが最強札のジョーカー(Joker:ジョークを言う人)を出しても負けてしまうってことは,その時,もう既に「革命」は起きているはずだと思うんですよね。

……「トランプ」だけに。

 

 

 

 

 

 

※ 一応,蛇足の解説を入れておきますと,トランプの「大貧民」ゲームではジョーカーが最強のカードですが,4枚以上のカードが同時に出て「革命」の起きた状態では,カードの強さの順序が逆転し,ジョーカーが最弱のカードに変わります。

サイト内検索はこちら

※検索結果ページの上部にはGoogleの提供する広告リンクが表示されていることがあります。

Loading

最新のブログ(5記事)への直リンクはこちら