真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(5)

前回(真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(4)参照),予備軍=半社会人が真のブラック社員になってしまう心理と背景についてお話ししました。

今回からは,ブラック社員やその予備軍への対処法を考えていきます。

ただし,ブラック社員への対処法と言っても,元祖ブラック社員(ブラック企業で熱心に働く従業員)の場合と真のブラック社員の場合では,対策も視点もまったく異なります。

まずは,真のブラック社員への対処法からみてみましょう。

真のブラック社員の問題行動には,徹底的に対処する

残念ながら「真のブラック社員」として覚醒し,会社に害悪をもたらすようになってしまった従業員に対しては,法律上可能な限りの厳しい対処で立ち向かう必要があります。そうでなければ,会社がつぶれます。

彼らのほうは,自分の行動で会社がつぶれても何とも思いません。悪いことをしているという自覚がないからです。

いったん真のブラック社員としての行動が始まってしまった相手とは,会社と一般社員を守るために,戦うしかないのです。


では,どのように戦うのか。

会社に損害を与える行為に対しては,社内規定に基づく懲戒処分(解雇等)を厳しく適用するほか,状況に応じて,民事上の不法行為に基づく損害賠償請求,さらには名誉毀損や業務上横領,背任罪などの刑事告訴も行うことになります。

そのためには,出来る限り早期に,損害の発生を認識して証拠を確保し,犯人を特定しなければなりません。特に,証拠や証言は,時間とともに忘れられたり揉み消されたりして,後からでは思うように集められなくなります。

絶対に避けるべきなのは,証拠不足のまま犯人を特定したつもりになって,一方的に厳しい処分,不適切な手続による処分をしてしまうことです。

曖昧な証拠で真のブラック社員を処分しようとすれば,逆に彼らのほうから不当解雇等により会社を訴えてくることが十分に考えられます。真のブラック社員は,もともと能力が低いわけではなく,むしろ得意分野での攻撃力や突破力は非常に高い場合があることに注意すべきです。

万が一,裁判で相手の加害行為を立証することができなければ,会社は彼らに対して多額の損害賠償義務を負う危険もあります。

かといって,いつまでもまごついていたら会社の受ける損害は拡大してしまうでしょう。


つまり,真のブラック社員に対しては,損害の発生に気付いた時点で,直ちに犯人の特定と裁判で使えるような証拠の収集に全力を挙げ,損害が拡大しないうちに断固とした法的対応をとるべきなのです。最初の一歩,入り口での対応を間違うと,後で困ったことになります。

特に,ネットでの名誉毀損行為は,書き込みの削除等の対応と同時に,犯人を特定して処分するところまで一挙に持ち込まないと,削除と書き込みのイタチごっこになってしまい,あっという間に被害が拡散する危険があります。

したがって,真のブラック社員の存在に気付いた時点で,すぐに客観的な専門家である弁護士に相談し,その助言を受けながら,労働法規にも配慮した適切な対策を練っていくことが大切です。

会社内に真のブラック社員を抱え込まないための事前防衛

もっとも,真のブラック社員の存在に気付いてから対処しようとするのは,あまりに遅すぎます。

大事なのは,あなたの会社にも,真のブラック社員の予備軍にあたる半社会人が既に入社している可能性はあり,彼らが真のブラック社員に変わってしまうかどうかは,会社や上司の側の対応次第である,ということです。

つまり,事前の対策によって,真のブラック社員を会社に抱え込まないことは十分に可能なのです。


事前防衛策の第1段階は,従業員の採用時に「半社会人」という存在に対して十分な注意を払うことです。

コミュニケーションに問題を抱えた人,利益優先の合理的すぎる思考をする人,何らかの依存症傾向のある人などは,半社会人的要素が強いと言えます。

いったん雇い入れた従業員の解雇処分等に対する法的規制の厳しさと比較して,企業側の採用の自由度は極めて広いことを大切にしてください。

もっとも,本当の意味で「人を見抜く」というのは容易なことではありませんね。採用に慎重になりすぎて有為の人材を雇うことができないのも,本末転倒です。


事前防衛策の第2段階は,会社内の倫理規定や就業規則を細かく整備し,従業員に対して周知徹底することです。同時に,顧客データ等の社内情報の管理者を特定し,管理方法を厳重にします。もちろん,製品・サービスの品質管理を徹底することも重要です。

他方で,管理部門が現場の声をきちんと拾えるようなシステムを構築しておくことで,過度に硬直的でない企業風土を育てられるとベストです。

これらは,企業コンプライアンス(法令遵守)の基礎であるとともに,従業員が会社や自分の仕事の価値を自覚することにつながり,ひいては企業の品格やブランドを内外に確立するための基盤となります。

これらはコーポレートガバナンスの基本的な考え方のはずですが,現実には,よく検討された就業規則等を備えている会社は,決して多くありません。


事前防衛策の第3段階は,リーダー(経営者,幹部社員)の資質向上と社内研修の充実です。とりわけ重要なのは,経営者や上司の側が,リーダーとしての自覚と能力を高める努力を怠らないことです。

加速的に変化する時代,様々な新しい特性と能力をもった社員たちが,それぞれの思いを持って,ひとつの会社に集まっています。

新しい感性を持った自由気ままな若手社員も,少し頭の固いベテラン社員も,若干の問題を抱えていそうな半社会人も,皆それぞれの得意分野と不得意分野が必ずあり,誰もが企業に貢献できる大きな可能性を秘めています。

部下の特性に応じた導き方により,一人一人から最大限の可能性を引き出してあげること,それができるような充実した「チーム」を作り,育て,動かしていくことこそ,会社のトップである経営者と各部門リーダーの役割であり,責任でもあるはずです。

たとえ,真のブラック社員の予備軍たちであっても,リーダー次第でホワイト社員へと育て上げることができます。まずは,その意識転換を図りましょう。

リーダーの高い見識のもと,企業が社会的責任を果たしつつ会社としての利益をきちんと確保することで,従業員も充実するし,株主も顧客も利益を受けることができるのです。それこそ,真のホワイト企業です。


こうした事前防衛策の構築やコンプライアンスの充実などについても,弁護士の専門的知識や経験をどんどん活用していただけたらと思います。

では,いわゆる「ブラック企業」や元祖ブラック社員への対処は,どう考えたらよいでしょうか。

次回,いよいよ「真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(6):最終回」に続きます。