このところ埼玉県警が,県内の色々な場所で,ひたすら同じ公衆放送を繰り返しています。
「『電話番号が変わった』,『風邪をひいて声が変わった』という電話は,…詐欺です!!」
いや,いや,いや,いや…。
それ,誰でも普通に言うから。詐欺とは限らないから。私も,このまえ言ったから。でもって,何でも詐欺だとか思われてすぐ電話を切られちゃって,下手すると速攻で着信拒否とかされちゃって,ものすごく困るから。やめてください。
断言の仕方が,ちょっと極端すぎでしょう。
(これも「わかりやすさの落とし穴」の一例ですね。)
さて,こうしたオレオレ詐欺・振り込め詐欺(今は,架空請求や必勝法詐欺なども総称して,「特殊詐欺」と呼ぶようになりました)の流行のせいで,弁護士の仕事が詐欺と間違われやすい場面も出てきています。
そのひとつが,当番弁護士として被疑者・被告人の親族に電話連絡をした際の会話です。
私は,近いうちに必ず「当番弁護士詐欺」が出現するだろうと思っています。
たとえば,ある日突然,皆さんの携帯電話に弁護士を名乗る見ず知らずの男から,こんな電話がかかってきたらどうしますか?
「私は,日弁連の当番弁護士です。息子さん(お孫さん,ご主人,etc.)が暴行容疑で警察に緊急逮捕されたため,私が先ほど裁判所の許可を受けて面会してきました。
息子さんが私選弁護士をつけたいと言っています。今すぐに弁護活動を開始しないと,えん罪で刑務所に入れられてしまいます。
弁護士報酬は,……円で,振込先は……です。急いで入金してください。」
この電話がかかってきた日に限って,たまたまその人の帰宅が普段より遅かったりしたら,さすがに焦りませんか?
もちろん,本物の当番弁護士なら(少なくとも私なら),こんな不作法な話し方はしません。きちんと名前と身分を名乗り,ご連絡することになった経緯について,もっとわかりやすく説明します。
まして,いきなり弁護士費用の話なんかしませんし,会うこともなくお金だけ振り込ませることもしません。
それどころか実は,上に挙げた例はわざと間違いだらけにしてあって,弁護士が聞けば一発で嘘(詐欺)だとわかる内容です。
しかし,普通の人なら,だまされてしまう危険が十分にあるでしょう。
では,当番弁護士詐欺を見破れるのかどうか,実際に試してみましょう。
上に挙げた例の中には,おかしなところが6個あります。
3つ見破れば合格です。全部わかった方は,かなりの「通」ですね~。
答え合わせは下の方でどうぞ。
ちなみに,本物の弁護士だって,ちょっと言い間違えたり,時間が無くて焦っていたりすることは結構ありますから,そういうとき,あんまりいじめないでくださいね。
なお,当番弁護士についての詳しい情報は,「【Q&A】当番弁護士とは?」を是非ご一読ください。
※以下,答え合わせです。
間違い1)「日弁連の当番弁護士」
当番弁護士は,各地の弁護士会で運用しています。「埼玉弁護士会の当番弁護士」とは言いますが,「日弁連の…」とは,まず言いません。(ただし,日弁連もお金は出しています。)
間違い2)「暴行容疑で警察に緊急逮捕」
法律上,暴行罪では緊急逮捕できません。
間違い3)「裁判所の許可を受けて面会」
弁護士の面会(接見)に裁判所の許可は不要です。
間違い4)「私選弁護士をつけたい」
「私選弁護士」ではなく,「私選弁護人」と言います。言い間違えることはあっても,間違えたまま(正しい言葉を知らない)ということはあり得ません。
間違い5)「えん罪で刑務所に」
逮捕されたばかりで,裁判も受けずに刑務所に入ることはありません。まずは「勾留」の説明が先でしょう。
間違い6)「弁護士報酬は」
最初にかかる弁護士費用は「着手金」や「実費」です。「報酬」は事件の終了時にかかるものですから,最初に「弁護士報酬」を振り込めというのは,ちょっと変です。
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