土地所有で宇宙人とブラジルの人が困る話

売買や賃貸借契約,離婚や相続など様々な場面で,不動産に関連する契約や事件を数多く扱います。するとその都度,不動産とは一体何なのか,特に「土地」とは一体誰の物なのだろうかと考えてしまいます。



たとえば,あなたが,ある土地を所有しているとします。

その土地は,本当にあなたの物ですか?


あなたが,自分のものであるはずのその土地を自分のために使うに当たっては,実に様々な規制(法的制約)を受けます。

不動産取引の重要事項説明書の標準書式には,宅地建物取引業法施行令第3条1項に定める55個の法令上の制限についてのチェックリストが附属して様々な制限を警告するほか,法令上の規制に関するその他の注意事項が羅列されます。要するに,あなたの土地でやってはいけないことの詳細で膨大なリストが添付されます。

自分で自分の家をデザインする注文住宅が流行で,ちょっと素敵な気もしますが,実際には,自分の家を建てるはずなのに,面積も,高さも,容積も,そのほか色々と自由にならないことばかり。注文を付けられているのはこっちのほうだと言いたくなります。


そもそも,私たちは土地を「平面」として考えがちですが,法的・経済的な意味での土地とは,決して「地面」のことではありません。地面の上と下の空間利用価値のことです。

そしてそれは,あなたがよく知らないうちに,非常に狭い空間に限定されてしまっています。


あなたの土地(家)の上の空を飛行機が飛んでいても,「領空(所有不動産の上空)侵犯だ」などという文句は言えません(騒音や振動は別です)。

今,「ドローン」がちょっとした話題ですが,あなたの土地(家)の上をドローンが飛んでいたとしても,ただ飛んでいるだけであれば,おそらく何も文句は言えないでしょう(盗撮等は別です)。

(ただし,空の法律はかなり曖昧です。航空法等で,飛行機は建物から300メートル以上の高さを飛べといった制限はありますが,明確にあなたの土地所有権が空のどこまで及ぶのか,はっきりしていません。)


あなたの土地の地下に地下鉄が走っても,あなたは文句を言えません。

(こちらは法律が割とはっきりしています。大深度地下の公共的使用に関する特別措置法・同施行令という法律で,原則として地表から40メートルを超えれば公共の利益となる事業に使われてしまうからです。)


まぁ,こういったことは,ある種,当たり前のことではあります。

確かに,空が土地所有者の物なら,宇宙の星や月も土地所有者の私物になりかねません。

地下がすべて土地所有者の物なら,「ブラジルの人」が困るでしょう。


それにしても,土地とはどこまで誰の物なのか,という疑問は残ります。


法的・経済的に言えば,中国などの例を持ち出すまでもなく,資本主義自由経済下のこの日本であっても,土地は究極的に国家の所有物です。「そんな馬鹿な」と思う方は,固定資産税の支払いを何年か止めてみれば,そのうち思い知ることになるでしょう。


つまり,土地は何人も所有できず,一定の範囲で管理できるだけであるとも言えます。

そしてそれは,国家・政府においても,究極の究極において,きっと同じなんです。

根源的な意味で「もともとどこかの国家に所属する(領有される)土地」なんて,どこにもないのです。



もっとも,根源的に人が所有できないのは,なにも土地には限りません。

この世にある全ての物は,おそらく誰にも所有できないのです。

だって,人は裸で産まれて裸で死ぬのです。最初に持っていた物,あなたがあなたであるための唯一否定し得ない所有物であるはずのこの体さえも,死ぬ時には置いていくしかないのですから。




そんなことを考えながらコンビニで買ったサンドイッチを囓っていると,

「でも私は,今,確かにこのパンを所有しているぞ」

とか思ってしまうのでした。