連載ブログ「真のブラック社員とは?」【過去の法律夜話】

埼玉・東京エリアを中心に活動する弁護士吉岡毅の本音ブログ「法律夜話」の過去ログです。

こちらのページでは,これまでの法律夜話から,連載記事「真のブラック社員とは?」を通してお読みいただけます。

一番上が「ブラック社員」シリーズの最も古いブログ記事で,上から下に向かって順に新しい記事になり,古い記事から最新記事まで順番に読むことができます。

※ブラック社員シリーズの一番古い記事「真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(1)」(2014年10月20日)に飛んでから,各記事の下部の「次の記事へ進む」を順に追いかけていって,記事を一話ずつ読み進めることもできます。


真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(1)

ブラック社員には2種類ある

「ブラック企業」ブーム(?)に続いて,今「ブラック社員」という言葉が広まりつつあります。

しかし,「ブラック企業」と違って,「ブラック社員」の定義は,かなり曖昧です。

ブラック社員と呼ばれる存在は少なくとも2種類に分けられ,両者は全く異なります。

 

ブラック社員という言葉の発生の元になったのは,ブラック企業とセットで語られる従業員,言わば「元祖ブラック社員」です。

彼らは,彼ら自身がブラックなのではなく,ブラック企業の中で一生懸命に働いてしまう結果,ほかの普通の社員やアルバイトにブラックな影響を与えてしまう人です。

 

これと正反対なのが,「真のブラック社員」です。

彼らは,ブラック企業ではなく,ごく普通の(ホワイトな)企業の中に潜伏しており,あるとき突然に牙をむいて,自分の会社や他の社員を地獄に落とします。これこそ,本当の意味でブラックな社員です。

 

今のところ,この2種類を世間はまだ区別できておらず,自分が想像する片方の「ブラック社員」についてだけ議論している人が多いようです。

元祖ブラック社員とは?

ちまたで言われる「元祖ブラック社員」とは,ブラック企業で現場の先兵として働く熱心な従業員のことです。

 

彼らは,第三者から見ればブラックとしか思えない企業・経営者の方針に心酔しており,自分の仕事に夢を抱き,会社(ブラック企業)に尽くしています。

そのため,誰よりも彼ら自身が,自己実現に燃えて,心身の限界まで長時間(かつ,場合によっては低賃金で)働きます。通常,彼らはそれが良いことだと信じています。

それと同時に,彼らは現場のリーダーとして,会社のために,自分の部下の社員やパートやアルバイトを,自分と同じように心身の限界まで働かせようとします。そのことに悪意はありません(ここで言う悪意は,「他者に対する害意」のことです)。

 

ただし,彼らの熱意ある仕事の結果として,ごく普通に働きたかっただけのほかの社員やアルバイトは,昇格も昇給もおよそ見込めないのに,長時間・低賃金の労働で酷使され,ぼろぼろになって,いずれ使い捨てられてしまうのです。

こうして,ブラック企業が成立します。

ブラック企業の責任転嫁

本来,彼ら(元祖ブラック社員)を,「ブラック社員」などと呼ぶのは間違いです。

 

確かに,彼らの存在こそがブラック企業を支えています。それは事実ですし,ブラック企業の実態を解明するための指摘としては当たっています。

もとより,ブラック企業の被害者である普通の社員やアルバイトにとっては,この「元祖ブラック社員」たちこそ,自分を酷使した張本人の上司なのですから,憎しみの対象でもあるでしょう。

しかし,自己実現のために必死に働く元祖ブラック社員たちは,本質的に彼ら自身がブラックなのではありません。ブラックなのは,あくまでも企業本体であり,会社経営陣(かなりの確率でワンマン経営者その人)なのです。

彼らのような自己実現に燃えた一部社員を利用して(作り出して),その他大勢の社員・アルバイトを意図的に短期で使い捨てにしようとする特定の企業の経営方針こそが「ブラック」なのです。

悪意(害意)のない元祖ブラック社員たちに責任を転嫁するようなことばかりを言えば,ブラック企業本体やその経営者の責任が曖昧になってしまいます。

 

さて,もうひとつのブラック社員,本当に怖い「真のブラック社員」とは,どういう人たちでしょうか?

次回,「真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(2)」に続きます。


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真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(2)

前回(真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(1)参照),ブラック社員には大きく分けて2種類あり,そのひとつがブラック企業の熱血従業員である「元祖ブラック社員」だという話をしました。

今回は,もうひとつのブラック社員,本当に怖い「真のブラック社員」についてご説明します。

真のブラック社員はホワイト企業に潜む

今,日本の多くの企業で,もうひとつの形のブラック社員が,静かに,そして着実に広がっています。彼らは,いわば「真のブラック社員」とも呼ぶべき存在です。

「元祖ブラック社員」と違い,「真のブラック社員」が生息するのは,ブラック企業ではありません。ごく普通の(ホワイトな)企業です。大企業か中小企業かを問いません。あなたの会社にも「真のブラック社員」や,その「予備軍」が潜んでいるかもしれません。

このことに気付かず,対処の遅れた企業は,いずれ予想を超えた大ダメージを受け,下手をすれば倒産の危機をむかえることになるでしょう。

真のブラック社員の特徴

「真のブラック社員」は,基本的に,会社に尽くすという発想がありません。もともと,会社の利益のために働くという意識が薄いのです。

したがって,社内での勤労意欲は著しく低く,通常の正社員に期待されるような働き方はしません。出世のための向上心もありません。

しかも,熱心に働こうとする同僚社員たちの足を引っ張ることで,自分の業績の悪さが目立たないよう画策します。

彼らは,与えられた仕事はしませんが,お金を稼ぐことに興味を持っていないわけではありません。むしろ彼らは,自分自身の利益や自己保身について人一倍敏感であり,お金には徹底的に執着します。

 

また,真のブラック社員は,自分が攻撃されたと感じると,逆ギレして,上司や会社に対して,後で述べるような恐るべき反撃を加えます。

会社の利益など眼中にありませんから,自分と自分の利益を守るためであれば,会社の不利益になることでも平気で行います。

しかし,その一方で,真のブラック社員は,決して自ら会社を辞めようとはしません。

会社が彼らをクビにすることも容易ではありません。

 

すべての企業にとっての獅子身中の虫。それが真のブラック社員です。

真のブラック社員の誕生

勘違いしやすいかもしれませんが,「真のブラック社員」とは,単に仕事ができない従業員のことではありません。

また,多くの場合,採用当初からブラック社員なわけでもありません。

もともと仕事に対する意欲が低く,一定の性格傾向のある「予備軍」だっただけの人が,何らかのきっかけで「真のブラック社員」へと変貌するのです。

そして,そのきっかけの多くは,会社や上司の彼らに対する扱い方に注意が足りなかったことに起因します。

 

典型的なきっかけは,上司が同僚らの前で,考えなく「予備軍」の人を叱り飛ばし,彼らのプライドをひどく傷つけてしまうことです。

彼・彼女は,自分の言動や態度を反省する前に,まず「恥をかかされた」と感じます。上司が怒りにまかせて何度指導しても,改善は見られません。むしろ,その上司への恨みだけをつのらせます。

その結果,彼・彼女は,自分のブログや2ちゃんねるなどの掲示板サービス,SNS(TwitterやFacebook,LINEなど)を通じて,自分の会社が社員をいじめる「ブラック企業」であり,自分はパワハラ上司の被害者であると主張します。

そして,ネット上で,上司の悪口や自分の会社に対する徹底的な批判を繰り広げ,従業員の個人情報や会社の内部事情を暴露します。

 

このようにして,「真のブラック社員」が誕生するのです。

 

 

もちろんほかにも,真のブラック社員によるリスク例があります。

次回,「真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(3)」に続きます。


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真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(3)

前回(真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(2)参照),真のブラック社員の特徴と,典型的な誕生のきっかけについてお話ししました。

今回は,真のブラック社員による別のリスク例や,元祖ブラック社員との比較についてご説明します。

真のブラック社員による顧客情報流出,流用

真のブラック社員のもたらすリスクについて,別の例を見てみましょう。

彼らは,会社内での出世を諦めている分,常に,何か別の楽チンな方法でお金を稼ぎたいと考えています。

個人的にFXやもっと危険なバクチ行為に手を出して失敗したり,会社に内緒で副業をしたりするくらいなら大したことではなく,せいぜい「予備軍」のままにすぎません。

しかし,会社内に彼らを誘惑する甘い環境があると,あるとき真のブラック社員に堕ちてしまうことがあります。

 

たとえば,真のブラック社員は,自分の会社の顧客データをUSBメモリにコピーして,こっそり持ち出します。それを名簿業者に売って,小遣い稼ぎをします。クリックひとつでコピーできるため,なかなか証拠が残らず,犯人の特定が困難です。

もし顧客情報流出が発覚すれば,企業の受ける社会的ダメージは計り知れません。

 

もっとも,こんな初歩的なやり方をするのは,「真のブラック社員」の中でも低レベルな初級者です。

より賢い(悪質な)ブラック社員上級者は,盗んだ名簿データを闇業者なんかに売りません。それではかえって足がつくと分かっているからです。

では,どうするのか?

彼らは,自分が副業で行っているネット通販ビジネスの販路拡大のために,持ち出した顧客名簿を流用してしまいます。最悪の場合,自社の顧客に対して,自社と競合する商品を,自社よりも安い金額で直接売り込みます。

つまり,自社のAという商品を月額5000円で定期購入している優良見込み客に対して,自分が副業で取り扱っているAと同等のライバル商品Bを,自社よりお得な月額4500円で定期購入するよう働きかけるのです。

しかも,彼らは,通販営業のために電話やDM(ダイレクトメール)なんて使いません。盗んだ顧客データの中のメールアドレスだけを抽出し,大量の広告メールを自動送信するのです。お金もかからないし,足もつきにくいからです。

実際,真のブラック社員のこうした巧妙な手口は,会社が原因不明の顧客離れで末期状態になってはじめて発覚する,というこもとあり得ます。

 

自分勝手な理由で上司や会社を攻撃し,ときには自分の利益のためにだけ会社を利用する。

これこそが,企業を食いつぶす「真のブラック社員」の姿です。

「元祖ブラック社員」と「真のブラック社員」の比較

ブラック企業で自己実現のため必死に働く「元祖ブラック社員」と,会社を食い物にする「真のブラック社員」とは,似ても似つかない正反対の存在です。

それでも,類似点を2つほど見出すことができます。

ひとつは,彼らの悪影響が社内(ほかの社員やアルバイトたち)に伝播して,企業全体を蝕むことです。

もうひとつは,彼らに自覚的な悪意がないことです。

 

ひとつめの共通点,伝播性。

まず,「元祖ブラック社員」が,その性質上周囲を巻き込むのは当然です。彼らは,それゆえにこそ「ブラック」と揶揄されるわけです。

一方,「真のブラック社員」の悪影響も伝染します。たとえば,彼らは会社で仕事をするのが大嫌いですから,自己正当化のために周囲の足を引っ張り,社内に自分同様の怠け者集団を形成することで,社内での居心地を良くしようとします。

会社が対策を取らず,何かにつけて「うまくやろうとする」彼らの言動を放置すると,会社への帰属意識や勤労意欲の低下が社内にジワジワと浸透していき,いずれすべての従業員が感染します。

 

では,ふたつめの共通点。自覚的悪意がないとは,どういうことでしょうか。

実は,真のブラック社員がどれほど会社の利益を害する悪事を働いたとしても,当の本人には,必ずしも悪意がありません。ただし,ここで言う悪意とは,「他者に対する害意」ではなく,「本人が悪いと思っているかどうか」です。

真のブラック社員は,自分の行為が他者(会社や上司等)を害する結果になることは,さすがに分かっています。その意味で,他者に対する害意は確実にあります。誰も傷つけるつもりのない元祖ブラック社員とは違います。

しかし,その一方で,真のブラック社員は「自分自身を守るためなら,他人(会社や上司)の利益を犠牲にすることは,正当な行為である」と信じています。そのような考え方をしやすい人であることが,「予備軍」たる条件なのです。

そのため,会社や上司を傷つける行為にも「悪いという意識」(自覚的な悪意)がないのです。

 

 

もちろん,このような「真のブラック社員」が生まれてしまうのには,それなりの理由があります。

次回,「真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(4)」に続きます。


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真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(4)

前回(真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(3)参照),真のブラック社員による顧客情報流出・流用のリスク例や元祖ブラック社員との違いについてお話ししました。

今回は,真のブラック社員予備軍である「半社会人」について,予備軍から真のブラック社員に変貌する際の心理状況について,ご説明します。

真のブラック社員予備軍は「半社会人」である

いつの時代もそうですが,若者たちは,古い世代と異なる全く新しい感覚で社会に進出します。

もちろん,若者たちをひとくくりに批判するのは,馬鹿げています。「新人類」や「宇宙人」たちだって,今はもう立派な中堅世代でしょう。

新しい感覚の若い人たちが当然にブラック社員予備軍になっているのではありません。ブラック社員予備軍になる一定の傾向を持った人は,昔から存在するし,それは若者に限らないのです。

ただ,真のブラック社員やその予備軍の多くが今の若者世代であることも,どうやら現実です。

 

では,真のブラック社員予備軍になる人たちとは,どんな傾向を持っているのでしょうか。

今二十代以下の世代は,生まれたときからたくさんの家電とIT技術に当然のごとく囲まれています。その中で育った若者たちの一部には,ネット上の友人とリアル(現実世界)の友人との区別が不十分で,ネットとリアルの人間関係が等価値な人がいます。

そこで止まっていれば何も問題は起こりませんが,これは非常に危うい状態です。ちょっとした心の病,ネット依存度の傾き具合によって,リアルとネットの比重が次第に置き換わってしまうからです。

ネットの世界で自己実現を図るようになれば,リアルな世界で人に認められる必要はなくなります。逆に,リアルでうまくいかないことは,すべてネットで解決し,ネットで発散するようになります。

そうなると,現実世界で生きる意欲も力も低下するし,他人との関わり方や生き方がどんどん下手になります。

その結果,もろく傷つきやすくなった自分の心をリアルな人間関係の戦いから守るため,引きこもりになったり,他者に対して極端に攻撃的になったりしてしまいます。

 

こうしたネット依存の例に限らず,適切な人間関係の結び方を学ばずに大人になり,社会に出てきてしまう人たちがいます。

彼らは,まだ社会にうまく適合していない社会人,つまり「半社会人」です。

仕事や人生の知識・経験が足りていない「半人前」とは違います。社会の中で人と関わって生きることが下手なのです。

 

半社会人は,時代を問わず昔から一定数存在しました。

しかし,現代日本の極めて恵まれた生活環境は,世の中に半社会人の割合を劇的に増加させ,質的にも変化をもたらしつつあると思います。ネット社会がそれを加速しています。

なぜなら,リアルな人間関係を結ばずに大人になることが誰にでもできてしまうし,それで何の不自由もなく現実に生きていけるからです。

そして,彼ら半社会人は,真のブラック社員予備軍として,あなたの会社にも必ず紛れ込んで来るのです。

予備軍から真のブラック社員への進化(退化?)

人間関係の構築が苦手な「予備軍=半社会人」が,たとえば,現実世界で上司に激しく怒られたとき,どう感じて,どう行動することになるでしょうか。

 

彼らにとって,人目のある場所での上司からの叱責は,自分への攻撃です。

「もし教育的な指導のつもりなら,個別に呼び出して注意すれば十分じゃないか。こっちは黙って静かに聞いているんだから,大声を出す必要もないだろう。それなのに,上司はわざわざ人前で怒って責めてきた。明らかにイジメだ。」

それが,彼らの合理的思考です。

 

ところが,彼らは,攻撃してくる上司に対して,リアルな世界で直接反論できるだけの対人経験値がありません。そのため,彼らには,上司から一方的に恥をかかされた,同僚や後輩から理不尽に笑われたという,悔しさだけが残ります。

そんなことが積み重なれば,いずれそれは恨みとなって,彼らが得意とする世界,すなわちネットの世界での徹底的な反撃へと結びつくことになるのです。

その瞬間,彼らは予備軍から真のブラック社員へと変貌します。

彼らにとって,面と向かって上司に言い返すことと,ネット上で全世界に向かって上司や同僚たちの悪口を言いふらすこととの間に,特別な違いなどありません。心理的に追い込まれた結果,自分にとって,より「やりやすい方法」で反撃しただけなのです。

 

また,多くがネット依存傾向のある彼らにとって,ネット上に誰でもアクセス可能な状態で公開されている電子データは,すべて「フリー」(いくらでもタダで入手でき,誰でも自分勝手に自由に使って良いもの)だという感覚があります。

したがって,もし会社内のパソコンに,パスワードもかけずに社員なら誰でもアクセスできる状態で顧客データが保存されていれば,それは社員が誰でも勝手に使うことを許された「フリー」の情報だと感じます。(少なくとも自分に対して,そういう言い訳ができてしまいます。)

電子データは,形がなく無限にコピー可能です。たとえ,それが本来は他人のモノであっても,お金や宝石を盗む感覚とは全く違います。

真のブラック社員にとって,自分が利用できる情報を最大限利用するのは単に賢い選択であり,個人の自由です。会社が誰でも利用できるようにしていた顧客データを副業のために使ったからといって,一体何が悪いのか分からない,となるのです。

 

 

では,こうした予備軍の寝た子を起こすことなく,むしろ彼らを積極的にホワイト社員(デキる社員)へと導くための上手な方法がないでしょうか。

次回,「真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(5)」に続きます。


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真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(5)

前回(真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(4)参照),予備軍=半社会人が真のブラック社員になってしまう心理と背景についてお話ししました。

今回からは,ブラック社員やその予備軍への対処法を考えていきます。

ただし,ブラック社員への対処法と言っても,元祖ブラック社員(ブラック企業で熱心に働く従業員)の場合と真のブラック社員の場合では,対策も視点もまったく異なります。

まずは,真のブラック社員への対処法からみてみましょう。

真のブラック社員の問題行動には,徹底的に対処する

残念ながら「真のブラック社員」として覚醒し,会社に害悪をもたらすようになってしまった従業員に対しては,法律上可能な限りの厳しい対処で立ち向かう必要があります。そうでなければ,会社がつぶれます。

彼らのほうは,自分の行動で会社がつぶれても何とも思いません。悪いことをしているという自覚がないからです。

いったん真のブラック社員としての行動が始まってしまった相手とは,会社と一般社員を守るために,戦うしかないのです。


では,どのように戦うのか。

会社に損害を与える行為に対しては,社内規定に基づく懲戒処分(解雇等)を厳しく適用するほか,状況に応じて,民事上の不法行為に基づく損害賠償請求,さらには名誉毀損や業務上横領,背任罪などの刑事告訴も行うことになります。

そのためには,出来る限り早期に,損害の発生を認識して証拠を確保し,犯人を特定しなければなりません。特に,証拠や証言は,時間とともに忘れられたり揉み消されたりして,後からでは思うように集められなくなります。

絶対に避けるべきなのは,証拠不足のまま犯人を特定したつもりになって,一方的に厳しい処分,不適切な手続による処分をしてしまうことです。

曖昧な証拠で真のブラック社員を処分しようとすれば,逆に彼らのほうから不当解雇等により会社を訴えてくることが十分に考えられます。真のブラック社員は,もともと能力が低いわけではなく,むしろ得意分野での攻撃力や突破力は非常に高い場合があることに注意すべきです。

万が一,裁判で相手の加害行為を立証することができなければ,会社は彼らに対して多額の損害賠償義務を負う危険もあります。

かといって,いつまでもまごついていたら会社の受ける損害は拡大してしまうでしょう。


つまり,真のブラック社員に対しては,損害の発生に気付いた時点で,直ちに犯人の特定と裁判で使えるような証拠の収集に全力を挙げ,損害が拡大しないうちに断固とした法的対応をとるべきなのです。最初の一歩,入り口での対応を間違うと,後で困ったことになります。

特に,ネットでの名誉毀損行為は,書き込みの削除等の対応と同時に,犯人を特定して処分するところまで一挙に持ち込まないと,削除と書き込みのイタチごっこになってしまい,あっという間に被害が拡散する危険があります。

したがって,真のブラック社員の存在に気付いた時点で,すぐに客観的な専門家である弁護士に相談し,その助言を受けながら,労働法規にも配慮した適切な対策を練っていくことが大切です。

会社内に真のブラック社員を抱え込まないための事前防衛

もっとも,真のブラック社員の存在に気付いてから対処しようとするのは,あまりに遅すぎます。

大事なのは,あなたの会社にも,真のブラック社員の予備軍にあたる半社会人が既に入社している可能性はあり,彼らが真のブラック社員に変わってしまうかどうかは,会社や上司の側の対応次第である,ということです。

つまり,事前の対策によって,真のブラック社員を会社に抱え込まないことは十分に可能なのです。


事前防衛策の第1段階は,従業員の採用時に「半社会人」という存在に対して十分な注意を払うことです。

コミュニケーションに問題を抱えた人,利益優先の合理的すぎる思考をする人,何らかの依存症傾向のある人などは,半社会人的要素が強いと言えます。

いったん雇い入れた従業員の解雇処分等に対する法的規制の厳しさと比較して,企業側の採用の自由度は極めて広いことを大切にしてください。

もっとも,本当の意味で「人を見抜く」というのは容易なことではありませんね。採用に慎重になりすぎて有為の人材を雇うことができないのも,本末転倒です。


事前防衛策の第2段階は,会社内の倫理規定や就業規則を細かく整備し,従業員に対して周知徹底することです。同時に,顧客データ等の社内情報の管理者を特定し,管理方法を厳重にします。もちろん,製品・サービスの品質管理を徹底することも重要です。

他方で,管理部門が現場の声をきちんと拾えるようなシステムを構築しておくことで,過度に硬直的でない企業風土を育てられるとベストです。

これらは,企業コンプライアンス(法令遵守)の基礎であるとともに,従業員が会社や自分の仕事の価値を自覚することにつながり,ひいては企業の品格やブランドを内外に確立するための基盤となります。

これらはコーポレートガバナンスの基本的な考え方のはずですが,現実には,よく検討された就業規則等を備えている会社は,決して多くありません。


事前防衛策の第3段階は,リーダー(経営者,幹部社員)の資質向上と社内研修の充実です。とりわけ重要なのは,経営者や上司の側が,リーダーとしての自覚と能力を高める努力を怠らないことです。

加速的に変化する時代,様々な新しい特性と能力をもった社員たちが,それぞれの思いを持って,ひとつの会社に集まっています。

新しい感性を持った自由気ままな若手社員も,少し頭の固いベテラン社員も,若干の問題を抱えていそうな半社会人も,皆それぞれの得意分野と不得意分野が必ずあり,誰もが企業に貢献できる大きな可能性を秘めています。

部下の特性に応じた導き方により,一人一人から最大限の可能性を引き出してあげること,それができるような充実した「チーム」を作り,育て,動かしていくことこそ,会社のトップである経営者と各部門リーダーの役割であり,責任でもあるはずです。

たとえ,真のブラック社員の予備軍たちであっても,リーダー次第でホワイト社員へと育て上げることができます。まずは,その意識転換を図りましょう。

リーダーの高い見識のもと,企業が社会的責任を果たしつつ会社としての利益をきちんと確保することで,従業員も充実するし,株主も顧客も利益を受けることができるのです。それこそ,真のホワイト企業です。


こうした事前防衛策の構築やコンプライアンスの充実などについても,弁護士の専門的知識や経験をどんどん活用していただけたらと思います。

では,いわゆる「ブラック企業」や元祖ブラック社員への対処は,どう考えたらよいでしょうか。

次回,いよいよ「真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(6):最終回」に続きます。


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真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(6):最終回

前回(真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(5)参照),真のブラック社員の悪行への対処方法や,予備軍=半社会人をホワイト社員へと育てていくリーダーの役割などについてお話ししました。
今回は,ブラック企業の手先となっている元祖ブラック社員への対策についてご説明して,ブラック社員シリーズは一応の最終回にしたいと思います。

ブラック企業問題の本質は,問題の取り上げ方にある

元祖ブラック社員は,ブラック企業(経営者)の言うままに動いているのですから,これに対処する必要があるのは会社・経営者側ではありませんね。運悪くブラック企業に勤務してしまい,熱心な元祖ブラック社員の同僚や部下という立場になってしまった一般の従業員,パート,アルバイトの皆さんです。
つまり,元祖ブラック社員への対処法とは,労働者側がブラック企業に対してどう立ち向かうか,という話なのです。
「ブラック企業対策」については,既にいろいろな人がいろいろなことを好き勝手に語っていますが,はっきり言って,そのこと自体がブラック企業問題の本質だと思います。
本来,個々人の法的問題(一般的な労働事件)の集合にすぎないことを意図的に社会問題化させた結果,ブラック企業の被害を受けた個々人の救済が後回しにされているのです。

ブラック企業の法律問題とは?

ブラック企業では,元祖ブラック社員の現場指揮のもとで,労働法の規制を無視した長時間残業,休日出勤,有給その他の特別休暇の取得妨害などが,集団的かつ継続的に行われ,しかも,これに従わない従業員に対して強烈なパワハラが行われる結果,最後は自主退職(実質的な不当解雇)に追い込まれます。
それが,特定の企業において,組織的に毎年のように大量に行われていることから,ブラック企業問題が大きく取り上げられました。


しかし,こうしたブラック企業の問題は,一般的な労働法や裁判例に基づく規制・規範への違反が明らかな点ばかりです。
元祖ブラック社員は,自覚の有無にかかわらずブラック企業の共犯者(民事上の不法行為にかかる不真正連帯債務者)となっている可能性はありますが,違反行為の主体は,その「企業」です。
要するに,もともとブラック企業問題とは,特定の企業による常習的な労働法違反行為であるにすぎません。それなのに,何かまったく新しい社会的病理現象が発生しているかのように,世間が騒ぎ立てているだけなのです。

これは,単なる「売春」を「援助交際」と言い換えて流行させてしまったのと同じ構図です。


ブラック企業や元祖ブラック社員に対しては,ほとんどの場合,通常の労働法の知識・経験に基づく一般的な対処を適切かつ緻密に行うことで,十分に対処できます。
そのためには,労働者側で,労働法制の基本をできるだけ学んでおくこと,変だと思ったら早めに労働事件について経験のある弁護士に相談しておき,状況を見て交渉や裁判,労働審判などの正式な依頼をすることが,とても大切になります。

専門家を名乗る非弁護士に注意

このブラック企業問題については,これまで,むしろ弁護士以外の者が中心となって,ある種,売名的にセンセーショナルな取り上げ方が続けられているようです。
その結果,本来の労働事件としての個別対処が置き去りにされたまま「社会問題」化し,政治課題,経済対策などといった視点で構造的な対処法ばかりが語られ続けました。


しかし,そのような大きすぎる視点では,ブラック企業で心身がボロボロになるまで働かされた個々の被害者たちの救済は後回しにされ,無視されてしまいます。
被害者自身も,マスコミ等の論調を見ると,自分の受けた被害が弁護士への相談で対処可能な法律問題だという認識を持てません。そうなると,精神的に追い込まれ,誰の助けも求めないまま自殺する人まで出てきてしまうのです。

 

ブラック企業問題に限らず,本来は弁護士が処理可能な法律問題であるにもかかわらず,弁護士以外の者が先に独占的な関与をしてしまうことによって被害者の法的救済が結果的に遅れてしまうことが,様々な分野で起こっています。最近では,ストーカー問題やDV,離婚問題などの男女間トラブルの分野で多くみられるようです。
行政書士など他の士業の方が,本来本業でないはずの部分まで頑張りすぎてしまう場合もあれば,法的資格と無関係に相談を受けることを商売にしようとする人も,以前より増えているように感じます。
もちろん,法律では解決しきれない社会的問題は存在しますし,法的には救済しきれない被害者がいることも確かです。彼らのためには,法律家以外の人々の様々な手助けが絶対に必要です。
しかし,法的に解決できる問題については,まず最初に「弁護士」の助言を求めておくべきです。法律上の解決を遅らせることは,ただ傷口を広げるだけで,メリットはありません。

取り返しのつかない末期症状になってから弁護士に相談しはじめるのでは,遅すぎます。

 

弁護士以外でも,本当に被害者のために誠実に活動している人たちは,被害者からの相談を決して自分のところだけで止めず,直ちに弁護士へ繋ごうとします。

それをしないで,「弁護士が足りないから自分がやっている」,「弁護士では解決できない」ようなことを言う非弁護士には,くれぐれも注意してください。(もう少し軽い話題ですが,「日本のテレビ報道は,もう少し何とかならないのか。(2014年6月2日のブログ)」もご参照ください。)


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