障がい者の権利と大人の事情

あけましておめでとうございます。


昨年末,国連の障害者権利委員会委員長であるマリア・ソリダド・システルナス・レイズ女史と直接お話しする機会がありました。


障害者権利委員会とは,「障害者の権利に関する条約」によって設置された国連の機関であり,世界各地の締約国政府から提出される報告書を検討して,各国への勧告などを行います。マリアさんは,ご自身が盲目のハンデをお持ちですが,2013年4月から同委員会の委員長として,この分野で精力的かつ国際的に活躍されています。

なお,日本は,同条約について2014年1月20日に批准し,同年2月19日から国内で効力が発生しています。


当日は,来日中のマリアさんとの意見交換会が日弁連にて開催されたため,私も国際人権問題委員会の担当委員として参加しました。

他の参加者は,日弁連の中でも自他ともに認める障がい問題の専門家である各弁護士と日本障害フォーラムからの代表出席の皆さんであり,正直言って,委員になって日の浅い私が国際人権問題委員会の代表となるのは気が引けたのですが,そこは「大人の事情」でお引き受けした次第です。



マリアさんのお話は,障がい者問題について常に原則論から展開されており,日本における従来的な障がい者支援のあり方に対しても,大きな発想の転換を求められる内容でした。

特に,これまで「障がい者に対する代理や本人名義の行動は,障がい者にとって便益である」と考えられてきたことについて,国際的には本条約成立以前の古い考え方であり,誤りであると明言されていたのが印象的でした。

すなわち,従来の考え方では,家族,医療関係者や法律の専門家らが,障がい者本人のためと称しつつも,実際には当の本人の気持ちを横に置いて,おそらく一般人の多数が利益だと感じるであろう内容で,(悪く言えば勝手に)代理行為をするのが普通でした。


しかし,障がい者のための制度であると言う以上は,たとえわずかでも残された本人の意思と能力を最大限に尊重し,あくまで本人の趣味・嗜好に基づく利益が何であるかを探る必要があります。本人の意思決定が,他人や一般人からみたら不合理に感じられるとしても,だからといって無視するのでは,障がい者の権利を保護したことになりません。私たちはみんな,他人から見れば不合理なことをたくさんしているのです。

この観点からすると,包括的な代理権を付与する日本の成年後見制度は,根本的な改革を迫られます。代理ではなく,意思決定と意思表明を各人に必要な範囲で支援できる制度を作っていく必要がありそうです。


もっとも,遷延性意識障害(いわゆる植物状態)の方のように,どうやっても自分では意思決定・意思表明しようがない人に対しては,やはり代理の形式を認めざるを得ないのではないかという疑問があります。

また,例えば,死刑判決を受けた被告人が自らの精神障害によって上訴や再審請求を取り下げてしまう場合など,手続の重大性に応じて,刑事弁護人などの一定の専門家に独自かつ固有の権利を認める必要がある場面もあるでしょう。

こうした例外的事情については,国連においても,まだこれから議論が尽くされていくべき問題であるとのことでした。


ちなみに,会議で私からマリアさんに対しては,日本の「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(いわゆる医療観察法)についての質問をしています。



でもまぁ,そんな難しい話より,会議後にマリアさんと少しだけ2人でお話をすることができたのですが,とにかくとっても優しくて,すごくキュートな方だったのです。名刺に点字を入れていなかったことを,ちょっと後悔。

人間(特に男は),たとえ会議で寝てても,そういうところでは「頑張るぞ」とか思っちゃうわけです。

それもまた,別の意味で「大人の事情」ってやつでして。



そんな感じで,今年もよろしくお願いいたします。


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コメント: 1
  • #1

    Berneice Vantrease (水曜日, 01 2月 2017 23:46)


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