「事件は現場で起きているんだ!」

先日,休日の早朝6時過ぎから,とある住宅街の交通事故現場で,交通量調査やら写真撮影やら,一人であれこれやりました。

休みなのに,何しろ朝が早くて。

で,すっごく寒くて。あと,雨も降ってまして。

そのうえ,犬の散歩中のおばあさんとかに,めっちゃ不審がられまして……。




以前,公式ブログのほうで現場主義について書いたことがあります。(「HEROは,検事か弁護士か?」→このリンクは,浦和法律事務所公式ブログに飛びます。)

要は,受任した事件の現場になるべく足を運んで,紙の上の文字や写真では分かりにくい細かな状況をしっかり確認するということです。


現場主義はとても役立つのですが,一方で,とにかく時間を取られるのが難点です。体は一つですから,限られた事件でしか実行できません。手間も費用もかかります。

それも,ただ現場に行けばいいだけであれば,まだ楽な方です。事件や事故が起こったのとなるべく同じ条件で現場確認をしようとすると,早朝や深夜に無理矢理にでも時間を作って,遠方の現場まで出かけていくこともあるわけです。


というのも,現場主義が最も活きてくる三大事件は「交通事故・不動産・(否認の)刑事弁護」なのですが,中でも交通事故関係の事件は,できる限り事故発生時と「同じ条件」の現場を確認することが重要になります。

事件や事故の起きた時間帯や曜日,天候や季節などによって,事故の発生条件や結果との因果関係が大きく変わるからです。

平日と祝日の違いだけでも,交通量の差によって結論の違いを生じ得るのです。



もちろん,事件処理の経験を積んでいくと,書面上でじっくり考えるだけでも,色々なことに気付くようになります。

しかし,やはり実際に行かないと本当のところは分かりませんし,思い込みや間違いを発見できないことも出てきます。


たとえば,報告書の写真では夜でもやや明るく見えているが,実際の同じ条件の現場は非常に暗かったことを争う事件。

書面だけ見て,可能性としてすぐに考えるのは,

(故意か過失かはともかくとして)カメラの露出オーバーではないか,

事故日は曇天だったのに,写真を撮った日が晴れて満月だったのではないか,

日時の経過による日没時刻のずれが,きちんと補正されていないのではないか,

とかですね。

実際には,事故当時は街路灯を覆い隠していた木の葉が,写真撮影時までに枝打ちされて全部落ちてしまっていたから,でした。

証拠写真からは枝打ちされた痕跡を確認できなくても,現場に行けば分かります。



高額の費用をかければ,専門の調査会社や代行業者を使って,十分な時間をかけた現場調査により様々な資料を収集することもできます。

証拠集め目的なら,むしろその方がはるかに望ましいでしょう。力量に個々の差はあれど,弁護士のできる証拠収集には限界があるからです。

けれども,ここで言う現場主義の最大の利点は,弁護士自身が現場に習熟することにあります。弁護士が自己の現場体験に基づいて主張や尋問を行うからこそ,言葉が力を持つのです。

だから,行くべき時には,行くしかないのです。




……そんなふうに自分自身を鼓舞し,半泣きになりながらも,やっとの思いで布団から這い出た真冬のある朝なのでした。