グラウンド・テクニック

最近,裁判前の示談交渉事件を受任する割合が,以前よりも増えている気がします。

私の場合,以前から裁判外の代理人交渉を依頼されることは何故か多かったし,裁判前に交渉だけで解決する事件の割合も高かったのですが,このところ,さらに顕著な増加を感じるのです。


日本全体で見ても民事の訴訟事件数は年々減っていますから,弁護士増員の影響と相まって余計そう感じるのかな,などと思っていました。ですが,どうも違うようです。

単純に,私が受任する事件の中で訴訟事件が減って交渉事件がかなり増えた,という印象です。



理由を色々と考えてみて,思い当たることがありました。



そう!


私には武術や格闘技の経験があるので,数少ない「寝技が得意な弁護士」なのです!!





……これは違うな。



もともと私の武術は基本的に打撃系が中心で,投げ技はともかく寝技はそれほど好きじゃありません。

大体,男同士で寝技を練習するというセンスが気に入らない。



……いや,そういうことじゃない。


だが,待てよ。


そういえば,受任する交渉事件のうち,交渉の相手方が女性である割合がやたらと高いような気がします。


そうか! 寝技と言っても,そっちかっ!!


それなら好……じゃなくて,得意っ…………な……の,か??





それはともかく,これまで受任して交渉で解決してきた多数の事件を振り返ってみると,正直言って,ほかの弁護士なら,そもそも受任していなかっただろうと思われる事案が,かなり含まれています。


特に刑事事件を多く扱っていると,結果的に困難な示談交渉に立ち向かう機会が多くなります。

まったくお金のない被疑者・被告人の謝罪文一通だけを携えて,重大犯罪の被害者と示談交渉することも日常茶飯事です。

たとえ,最初から最後まで一方的に不利で,まったく見込みのないような示談交渉でも,最大限の努力と誠意を尽くさなければなりません。


そのせいか,民事事件の相談を受ける際にも,困難な交渉事件に対する抵抗感がほとんどなくなります。

普通の弁護士なら「無理だ」とすぐに断るような事案でも,「可能性はかなり低いが,それでもよければやってみましょう」ということになりやすいし,実際,やってみなければわからないものです。

もちろん,法律相談で甘い見通しを言うことは決してありません(むしろ,私はリスクの説明を厳しくしすぎる傾向があると思っています)。無理なものは無理です。明言します。

しかし,事案に潜むわずかな解決策の可能性に気付くことができれば,リスクを承知で,それに賭けてみる余地はあるでしょう。




ちなみに,私が考える示談交渉で最も大切なことは,話のうまさでも,腰の低さでも,押しの強さでも,色々な意味の寝技でもありません。

対立する双方の主張をまとめて,双方にとって利益となる優れた解決策(妥協案)を提案する能力です。これは,法的知識と経験を背景として,ある種のヒラメキによって生み出されるものではないかと思います。


交渉相手の多くは強い怒りをもっており,示談で紛争が良い方向に解決できるなんて信じようとしないし,示談のメリットもなかなか理解できません。

しかし,長引く紛争は,怒りだけでなく,同時に疲れや苦しみをもたらすものです。


良い示談交渉とは,すなわち,紛争の良い解決のための努力と工夫であり,それができていれば,交渉終結後に必ず笑顔でお別れできるのです。