埼玉・東京エリアを中心に活動する弁護士吉岡毅の本音ブログ「法律夜話」の過去ログです。
こちらのページでは,これまでの法律夜話から,連載記事「妖しい法律」シリーズを通してお読みいただけます。
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よくある痴漢やわいせつ犯の言い訳のひとつ。
「被害者の女性がミニスカートで挑発的な格好をしていたので,つい興奮してしまった。」
これを弁護人が被害者の落ち度として主張すると,女性に対する性差別になるという議論があります。
女性には,おしゃれを楽しむ権利があり,多少刺激的な服装をしたからといって性被害を受ける理由にはならない。私も,基本的にそう思います。
ただ,日本の法律は必ずしもそうなっていません。
軽犯罪法第1条20号は,「公衆の目に触れるような場所で公衆にけん悪の情を催させるような仕方でしり,ももその他身体の一部をみだりに露出した者」を「拘留又は科料に処する」と定めています。
「しり(ヒップ)」はともかく,「もも」も露出禁止なんです。違反したら刑罰。すごい法律です。いつの時代でしょう?
……今ですけど。
ミニスカ女子高生は摘発されていないようですが,軽犯罪法自体は今も適用されており,警察が市民を摘発する口実として便利に使われることもあります。
この法律の制定当時(昭和23年)は,太ももを露出した服装で道を歩くだけでも,見た人が嫌悪の感情をもよおすと考えられていました。たとえ女性が美しい太ももをチラ見せしただけでも,「まぁ,なんてハシタナイ!」「ケシカラン!」と眉をひそめられた時代です。
もちろん,現在の価値観では,女性のミニスカは「けん悪の情を催させ」ない,という解釈も成り立ちます。だからこそ,逮捕者が出ていないわけです。
けれども,その法解釈には問題ありです。
だって,綺麗な女性が脚を出すのはオシャレで済まされるけど,男だと見た目が気持ち悪いから「けん悪の情を催させる」とか言ったら,それこそ性差別でしょう。
かといって,女も男も誰でも許される(誰にも適用されない)と解釈したら,刑罰の存在意義を説明できません。
そういう法律が今も廃止されていない以上,厳密に言ったら,現在でも「もも」を出して歩いちゃ駄目なわけです。
今でもケシカランと思う人がいる可能性は十分あるんですから。
したがって,「ミニスカは違法」と考える余地があることになります。
もしもミニスカが違法なら,違法に犯人を挑発した被害者側の落ち度を指摘することも,当然許されるはずでは?
しかも,軽犯罪法によれば,太ももをめっちゃ露出する服を売った店員さんや,それを娘に買って着せてあげたお母さんも,教唆犯(そそのかした罪)や幇助犯(犯罪の成立を手助けした罪)になっちゃうかもしれないのです(同法3条)。
もちろん,刑罰の濫用はいけません。
「この法律の適用にあたつては、国民の権利を不当に侵害しないように留意し、その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあつてはならない」のです(同法4条)。
軽犯罪法は,まさしく自他ともに認める妖しい法律だと言えます。
ミニスカを違法にするかもしれない法律をそのままにしておくなんて,それこそケシカランと思うのですが。
ご存じかと思いますが,ギャンブル(賭博、賭け事)をすると捕まります。
なぜなら,刑法第186条が,
「賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。」
と定めているからです。
ただし書による処罰範囲の限定はあるものの,賭博は日本では立派な犯罪なのです。
実際,野球賭博などで逮捕される人が有名人にもときどきいますよね。
一回ではなく何度も賭け事をしていると,罪が一気に重くなります。
刑法第187条第1項が,
「常習として賭博をした者は、三年以下の懲役に処する。」
としているからです。
ちなみに,ヤクザが賭博場を開くような場合は「賭博場開張等図利罪」と言い,「三月以上五年以下の懲役」 という重い罪になります(同条第2項)。
つまり,通常の賭博罪や常習賭博罪は,別にヤクザを取り締まるための法律ではなく,一般の人がやる賭け事を取り締まるための法律なのです。
市民が賭け事に熱中すると,それを原因として丸儲けする詐欺師が出たり,逆に身を持ち崩して破産したり,家族や他人に迷惑を掛けたり,お金のために犯罪に走ったりする人がたくさん出るので,刑罰で賭け事自体を禁止しているわけです。
同じ趣旨で,刑法第187条は,なんと「宝くじ」の「発売」も「取次ぎ」も「授受」もすべて犯罪として取り締まっています(宝くじのことを法律で「富くじ」と言います)。
でも,……それって,おかしくないですか?
国営の競馬も競輪も競艇も,立派な賭け事です。
国が賭け事をTVコマーシャルを使ってまで推進して荒稼ぎしているのに,一般人が賭け事をしたら犯罪だなんて,すごく卑怯だと思いませんか?
銀行が宝くじを売るのは,何故許されるんですか?
これらは,国の収入確保のために,法律に基づいて厳しいルールのもとに運営しているからOKなんだそうです。
それなら,普段から税金をきちんと払っている人が,身を持ち崩さない範囲で一定のルールに基づいて賭け事を楽しむのは,どうして犯罪なんでしょうね。
パチンコもパチスロもそうです。
あれは景品交換ということにされていますが,一般には決して流通しない無価値な景品を隣の別の店(?)で現金に引き替えています。
誰でも知っています。
パチンコ破産者も大量に出ており,社会問題になっています。
けれども,警察も検察もパチンコ・パチスロを賭博罪としては扱いません。
ずるくないですか?
大人の皆さん,これを子どもたちに対して,堂々と胸を張って説明できますか?
貧困問題について積極的な活動をする弁護士は,パチンコ・パチスロの規制を訴え,カジノ法案に反対しています。
私は,何でも規制や禁止をすればいいとは思いません。
大切なのは自己管理であり,平等で公正でわかりやすいルール(法律)です。
そのために,妖しい法律は,直ちに改めるべきです。
刑罰法規は,最小限にして明確,かつ,公正,公平でなければなりません。
この場合にまず改めるべきは,刑法の賭博罪のほうです。
そのうえで,賭博全般に関する新しいルールを皆で考えるべきです。
賭博罪を残したままでカジノの合法化を大まじめに論じるなんて,ナンセンスです。
(今回は『浦和法律事務所ブログ』より転載しました。)
日本では,無修正エロ画像(わいせつ物)を「裏」と呼んで,その頒布や販売目的での所持を重く処罰しています(刑法第175条,「2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料」)。
今どき,ネットにつなげば,多数の海外サーバーから大量の無修正ポルノ画像・モロ動画を常時ダウンロードし放題であることは,ネットユーザーなら誰でも知っている常識です。
にもかかわらず,今も,裏DVD数枚を客に販売したなどという馬鹿げた罪で逮捕され,刑務所に服役させられる人たちが存在します。
もちろん,現実の子どもを被害者とする児童ポルノなどは,厳しく取り締まるのも当然でしょう。
しかし,そうではない一般的なわいせつ物の販売等は,いわゆる「被害者なき犯罪」です。
特定の被害者ではなく,広く日本の社会風俗を害するかどうか,その行為者の処罰によって善良な風俗を維持する効果があるのかどうかが問題となります。
たしかに,人前で堂々とエロ画像などをやり取りしていれば,観たくない人の目にも入って嫌悪感を覚えさせるでしょうし,子どもにも悪影響を与えかねません。
でも,それならコンビニで売っている「表」のエロ本や,嫌でも勝手に出てくるネット広告のほうを処罰すべきはずです。
繁華街の人目につかない裏道の,大人だけが入れる店のそのまた奥のほうで,大人が大人に対して,大人だけが出演する大人向けのDVDを数枚売買したからといって,誰にも迷惑はかかりません。
どうして多額の税金を使ってまで摘発し,今後の人生を奪って刑務所に放り込む必要があるのでしょうか。
ネット社会においては,商品(物)の流通だけを一部制限しても,わいせつ情報の国家による管理・統制には何の役にも立ちません。
土砂降りの雨の中でのホースによる水まきを規制するようなものです。
それどころか,ネット上に規制不可能な大量の無修正エロ情報があふれている現状で,国内で物の販売規制だけをやっていたら,結果的に,国家は刑罰の威嚇によって人々をネット上のエロ無法地帯へと追い立てていることになります。
なんとまぁ妖しい法律でしょうか。
好むと好まざるとにかかわらず,日本において,市民が個人的に無修正エロ画像・動画を観て楽しむことは,もはや許された趣味の領域になったと言うべきです。
この現実を誰にも止められないでしょう。
刑罰によって取り締まるのは,公の場や年齢制限を無視したわいせつ物頒布行為等に限定すべきです。
大人って,何歳のことですか?
法律的には,一応,20歳からと考えるのが標準的です。これは,民法が『年齢二十歳をもって,成年とする。』と定めているからです(第4条)。
20歳になると,選挙権が与えられます(公職選挙法第9条)。
お酒を飲んでも,煙草を吸ってもよくなります(未成年者飲酒禁止法第1条,未成年者喫煙禁止法第1条)。
有効な契約を結んだり,馬券を買ったりもできますね。
逆に,成年に達するまでは,法律上未成熟であるとみなされて,子どもとして親の親権に服さなければなりません(民法第818条1項)。
しかし,現実には,18歳の大学生がコンパでお酒を飲んでいても,誰も注意しないでしょう。法律上はともかく,肉体的にも社会生活のうえでも,もう十分に大人と評価できるはずです。
民法の制定過程をみても,成年を20歳とした具体的根拠はよくわかりません。実のところ「何となく」そう決まったようです。
そもそも,昔は数え年12歳とかでも元服しましたし,今でも野郎どもにとっては童貞を捨てれば「大人」でしょうし,女の子が子どもを産める体になると赤飯を炊いて「大人」になったお祝いをするとかしないとか……。
法律の話に戻ってみても,バイクは16歳から,自動車でも18歳から免許を取れますね。
18歳未満とHすると処罰されることがありますが(各地の青少年保護育成条例等),逆に言えば,18歳を過ぎていれば相手が未成年者であっても,肉体関係を含めて自由に男女交際できてしまうわけです。
それどころか,親権者が許可する限り,18歳の未成年者が性風俗店で働こうがAVに出演しようが何の罰則もありません。
そもそも,男は18歳,女は16歳を過ぎれば,父母の同意を得て結婚することだってできるのです(民法731条)。
で,結婚した場合は,20歳未満でも成人とみなされます(民法753条)。離婚しても未成年者には戻りません。
結婚して直ちに離婚しても成人のままですから,「16歳で独身の成人女性」も存在します。既に成人ですから,再婚するのも自由。もはや父母の同意すら不要です。
ずらずらと書いていくとキリがありませんが,要するにもう「18歳で成人」ということにしたらいいんじゃないでしょうか。そしたら,大体の法律関係と社会的評価が一致して,世の中がかなりスッキリするでしょう。
ちなみに,天皇や皇太子とかは,18歳で成年です(皇室典範22条)。
もっとも,20歳以下の18歳とか19歳とかで高額の買い物をできることになってしまうと,近年の消費者保護の流れに逆行するという消極意見もあります。
それはそれで理解もできるのですが,その「保護」って,すごく中途半端じゃないでしょうか。そこだけ言うの?って感じで。
年齢に関する法律は,大抵どこかしら妖しいところがあります。
中でも,20歳を成人とする超有名な規定こそ,実は非常に妖しい法律のひとつなのです。
結婚には適齢期という嫌な言葉があるらしく,晩婚化とか結婚氷河期と言われる今の時代には,適齢期の年齢幅も上がってきているようです。
誰がいつ結婚しようがしまいが余計なお世話ですし,その人にとっては結婚したそのときが適齢期でしょ,って思うのですが……。
もっとも,それは上限年齢の話であって,下限は別です。
たとえば,イスラム法の世界では9歳の女の子が結婚できたりするところもあるのですが,さすがに国際的には批判を受けることがあります。
要するに,世界のほとんどの国家で,おおむね肉体的に成熟して大人になったと考えられる年齢で一定の線を引き,結婚の下限年齢が定められています。
これを法律用語で「婚姻適齢」と呼びます。
前回も書きましたが,日本では「男は,十八歳に,女は,十六歳にならなければ,婚姻をすることができない。」という条文で,婚姻適齢が定められています(民法731条)。
これに反する婚姻は,取り消しの対象になります。
どうして男と女で婚姻適齢(結婚の下限年齢)が違うのでしょうか。
女性のほうが肉体的成熟が早いからと説明されることもありますが,後付けの屁理屈ですね。
立法に至った経緯から考えられる本音は,「親が自分の娘を一年でも早く(若く)嫁にやれるようにしておくため」なのです。今考えると,時代錯誤な政略結婚や人身売買みたいな遠い世界に感じるかもしれませんが,民法制定時には,若い女性(娘)がその家の財産や商品のように扱われた時代が,まだ終わっていなかったのです。
これ,男の側から見たら,「少しでも若い娘を嫁にもらえるようにしておくため」なわけです。「17歳や18歳じゃ嫌だ! 16歳がいい!」という(金持ち)男の欲望に答えられるように法律を作ったのだと,言えなくもありません。
さすがに妖しすぎるでしょ?
憲法14条は,法の下の平等を定めています。
合理的な理由もないのに男女で婚姻適齢を差別している民法731条は,憲法14条に反する違憲の法律です。
婚姻適齢は,男女とも同じ年齢にすべきです。
だからこそ,18歳を成年として,成人したら婚姻も契約も就職も飲酒も喫煙も肉体関係もすべて自由,選挙権も与え,大人として刑事責任も取らせるようにすればいいのです。
逆に,日本国民が成人年齢を20歳のまま維持している間(日本国民の代表である国会が法改正をしない間)は,20歳未満の少年(未成年者)を国家が十分に保護しなければいけません。
少年法だけを取り出して批判するようなことは,間違いです。
大人としての権利を奪っておいて,大人と同じように責任を取れと叫ぶのは,卑怯者のすることです。
平成29年5月30日,「個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律案」が全面施行されました。
これが,ここ最近,まじめな中小事業者を泣かせている,いわゆる「改正・個人情報保護法」というヤツです。
え? 改正法の対応に小規模企業が困っていることは分かるけど,個人情報保護法のいったい何が妖しいんですか?
……いやいやいや。上に書いた個人情報保護法の正式名称の「及び」以下の部分,「行政手続における」うんぬんというのは,いわゆるマイナンバー法(個人番号法)のことです。
マイナンバーなんてもう,それ自体が妖しさマックスというか,お先真っ暗な泥沼監視社会の入口はこちらですよ的な法律なわけです(「出口はこちら」の案内板が共謀罪です)。
なので,マイナンバー法と不可分一体の法律である個人情報保護法が妖しくないワケがないのです。
ということで,妖しいのは確かなのですが,マイナンバーが本領を発揮するまでは,この法律の本当の妖しさは誰にも分からないでしょう。
……「誰にも」って,じゃあ,お前もかっ!
って感じですね。
まあ,実際そうなんですが,そうだとは口が裂けても言ってられないのが弁護士というお仕事なのです。
何だかよく分からないことを言っていますが,要するに,ホントの妖しさはこれから時間をかけてみんなが分かることだろうけど,現時点でも,妖しい点はいっぱいあるぞということです。
たとえば,個人情報保護法第2条は,個人情報を「生存する個人に関する情報」に限定しています。
死んだ人に関する情報は,個人情報ではないということです。
つまり,私たちに関するあらゆる情報が,死後,いきなり「個人情報」ではなくなり,保護の対象外にされてしまうということです。
男子諸君!
この妖しさに貴兄は気付くか!?
ということはつまり,我々が皆,等しくベッドの下や押し入れの奥の段ボールの中に隠しているであろうあんなこんなも,死んだら開けずに燃やしてくれと遺言を残すようなパソコンのハードディスクの中身も,全部まるごと,死後もはや個人情報じゃなくなっちゃうかもしれない。死後の男子の本懐(プライバシー)は一切保護されないかもしれない,ということなのだ!
これを妖しい法律と言わずして何と言うのか!!
……などという謎の男子の本懐論はともかくとして,死んだらもう個人情報として保護されない,というのもどうなんでしょうか。
立法理由としては,保護すべき個人情報の範囲を適切に制限(狭く)することで,企業側の過剰な負担とならないようにする,などということも言われます。
う~ん。
共謀罪と同じで,妖しい法律を作ろうとする人たちは平気で嘘をつくので,気をつけなければいけません。
個人情報を取得している通常の企業に,その人が死亡したらもう個人情報として扱わなくていいよ,などと法律が言っても,企業側の負担の軽減にはなりませんよ。
だって,その人が死亡したことを企業はどうやって知るのでしょうか?
死亡したと明確に分からない限り,生存している個人の情報としてずっと管理し続ける必要がありますよね。
そうすると,個人情報保護法を立法した人たちは,今ではない近い未来に,いずれ個人の死亡に関する戸籍などの情報を企業がいつでも知ることができる時代が来る,という前提で考えていることになりそうです。
戸籍,住民票,銀行口座,不動産,勤務先と収入,支出(つまり買い物の金額と内容)などのすべての情報が紐付けされて個人情報としてひとまとめに管理され,国家によって検索可能となる。
そのうえで,個人情報の一部は,国家様がお作りくださったありがたい法律のおかげで,何とか保護していただける。
しかし,人が死んだら無に帰すので,すべての情報が保護から外れてしまう。
そういう暗い社会が想定されているような,全然想定されていないような……。
マイナンバー,特定秘密保護法,共謀罪は三点セットです。
これに戦争法と憲法改正が入ると豪華五点盛りになります。
今,4つめまで来ましたよ。